第14話 雨の日のメロディ

昇降口を出ると、雨は本降りになっていた。

校舎の軒下から見える景色は、灰色にけぶっていて、じっとりと湿った空気が肌にまとわりつく。


「小鞠ちゃんたちの学校って、確かうちの高校から少し離れたところにあるんだよね」

「はい、なのでたまに一緒に帰っているんですよ」

三津原さんが小さめの傘を広げながら、やや前を歩く。


彼女に付いて行き校門の前にたどり着くと、ちょうど制服姿の数人が傘を差しながら出てきた。


「……あ、いたいた」

その中に傘を指していない制服のリボンが揺れる、小柄な女の子がこちらに駆けてくる。

その隣には、申し訳なさそうに笑う美羽と、苦笑した様子の梨音が並んでいた。


「お姉ちゃーん!」

「小鞠!?なんで軒下で待ってなかったの!」

「だって! お姉ちゃん見つけたんだもん!」 


「まったくもう……朝渡し忘れてごめんなさい、小鞠」

「許すー! けど次は忘れないでね」


軽口を交わすふたりを見ながら、皆で苦笑する。


「詩織さんでもうっかりもあるんだ?」

「……私だって、たまにはありますよ」

「でも、小鞠ちゃん嬉しそうだね」

梨音がふわりと笑うと、小鞠も「うんっ」と頷いた。


「ってことで! みんなそろったし、カラオケ行くぞ!」

悠二がバッと手を挙げる。


こうして、俺たちはわいわいと連れ立って駅前のカラオケ店へ向かった。


駅前のカラオケ店に着いた頃には、雨も少しだけ弱まっていた。

ビルの地下にあるその店は、外の湿気とは無縁の冷房と、ポップなBGMで満たされている。


受付を済ませ、6人分のドリンクを手に部屋に入ると――


「おお、意外と広いじゃん!」

悠二がテンション高めにソファに飛び込む。


「お兄ちゃん、濡れてるまま座らないで!」

美羽がタオルを差し出しながら、けれど笑っている。


「ねぇねぇ、お姉ちゃん歌って!」

小鞠が早速リモコンを詩織に差し出す。


「え、私?」

詩織が戸惑いながら受け取ると、梨音がにっこりと加勢する。


「詩織さんの歌、ほんとにきれいだから」

「じゃあ……一曲だけ、ね?」


控えめに選んだその曲は、雨の午後にぴったりの、少し切ないメロディだった。


(……この声、落ち着くな)

そんなふうに思いながら、俺はふと詩織の横顔を見る。


彼女はいつもどおりに微笑んでいた。

でもその歌声には、どこか心の奥に触れるような“寂しさ”が、少しだけ滲んでいた。


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