第2話 廃業

 ことしの春、おれが仕事で不在のときに、圭吾けいごが父を病院に連れて行ってくれた。数年前にもあった。これで何度目だろうか。確実に命拾いしているのだ。


 入院の数日前から、体調がおもわしくなかった。仕事をやめることも考えておかなくては、などと言ってはいた。それからすぐ、父は、商売を廃業する決断をした。あまりにも突然だった。店についての説明をされた。通帳についても。暗証番号については、しばらく前から聞かされていた。そのときに、実は父と母は通帳の暗証番号が共通だったことを知った。


 連絡先はスマートフォンにまとめてあったが、やはり本人でないとわからない。


 その翌日に入院。朝、おれが帰宅したら、中央病院に行くというメモが調味料のフタに貼ってあった。すべての手続きをしたのは、圭吾けいごだった。朝から夕方まで、一日中かかった。


 話によると、造影剤で、とくに出血のないことを確認。どこかが悪化したというのでもない。貧血気味で鉄分が不足しているとのこと。食がせまくなっていたのはたしかだが、去年とくらべて体重が10kg減っていたことは知らなかった。


 すぐに退院たいいんできるらしい。長期間入院すると足腰が衰えてしまうのでよくないというのもあるということだ。


 面会時間は午後3時から5時まで。15分だけ。


 夜勤だから、会社を休まずに行ける。ただし、寝不足を覚悟することになる。



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