第26話 セクハラ案件
「ご学友の件で相談という話ですけど、殿下方から、苦情は出ていませんよ? 心配することは何もないと思いますが」
いやいやいや! そうではなくて! 苦情は僭越ながら私からですっ。
ハンナは涙ながらにトンプソン先生に訴えた。
「護衛騎士のエリック様のセクハラがひどいんです」
「エリック様? エリック様とは誰ですか?」
先生も知らないんだ。
「私はアレクサンドラ殿下のご学友を言いつかりました。ですが、なぜか、フィリップ殿下との婚約を企むヒルダ嬢と、その企みを支援するジョージ様の監視がお役目となってしまったんです。そのために護衛騎士のエリック様とデートをしているんです」
先生は変な顔をした。
ハンナも説明が悪すぎることに気が付いた。
「フィリップ殿下の婚約問題なら、あなたが関係することではないと思いますよ? あなたが護衛騎士とデートする必要はないでしょう?」
みんな、そう思いますよね!
「その通りだと思います。でも、これはフィリップ殿下からの命令なんです」
トンプソン先生はびっくりしたらしかった。
「え? フィリップ殿下が、その護衛のエリックとやらとデートをしろと?」
「ええと、デートをしろとは言っていないですが、護衛騎士のエリック様と一緒にスパイしてこいと言われました。エリック様とは、お食事に出かけ、お茶を飲んで、お芝居に行って、宝石店に行ってイヤリングを買ってもらいました。それをつけて次の学園のダンスパーティに出るように言われました」
トンプソン先生は黙り込んだ。スパイ活動ではない。どう聞いてもただのデートだ。
「私には婚約者がいるんです。ですけど、ジョージ様は私との婚約破棄を目指しておりまして」
「婚約破棄を目指している……」
「しかも私の有責で! 護衛騎士のエリック様がこのままの態度だと、まるでジョージ様に口実を与えているみたいです!」
ハンナは猛烈に迷ったが、ひと思いに言ってしまおうと思った。
「宝石店では、耳や首を触られまくりました。ビクビクしました」
それ、護衛騎士、マジ、セクハラ……
「それで学園のダンスパーティには、護衛騎士様のイヤリングをつけてダンスパーティに出てこいと?」
「そんなことをしたら、私、本当にジョージ様の思惑通りになってしまいます。本当は、婚約がなくなることは歓迎なくらいなのです。だって、ジョージ様は、入学してすぐ、ご学友という大切なお役目を承ったそうで、とても忙しくなるから、婚約者の私とは会えないと言ってこられました」
トンプソン先生は真実を教えたものかどうか悩んだ。
フィリップ殿下の側の生徒監督はクリケット先生がやっている。
色黒で背の低い、貴族然とした人物で、先生の型にハマった考え方は生徒から嫌われていた。
クリケット先生が選んだだけあって、ジョージも似たようなところがあるらしい。
フィリップ殿下のジョージのウケは最悪だった。
「偉そうにふんぞり返って、僕に指示するんだ。頼みもしないのに、学園の案内をするんだ。そのくせ質問すると、すぐに反応できなくて黙り込むし、聞きたいことと違うことを教えてくれる。あいつ、バカじゃないの?」
すごい酷評である。ジョージをご学友に選んだクリケット先生の立場がない。
とは言え、フィリップ殿下にも責任はあった。
殿下は、あろうことか、ボサボサの黒髪を長く伸ばし、黒縁の眼鏡を着用していた。顎は襟の中に沈んで、人相がまるでわからない。
その姿を見た途端、あからさまにジョージの態度が悪くなった。
なんとなく見下すような態度に変わったのである。
「人を見かけだけで判断する人間はロクなヤツがいない」
フィリップ殿下の鶴の一声で、ジョージは一回会った錐、ご学友の地位をはく奪されていた。
トンプソン先生は、双子の王子と王女殿下が入学するに際して、パース夫人からフィリップ殿下について簡単に事情を聞かされていた。
例えば、彼がどうして、あんな変な格好をしているのかについてなど。
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