第27話 金玉商会
その三日後、フィリップ殿下は、母親の王妃様の部屋で尋問を受けていた。
「フィリップ。このあなた宛ての巨額の請求書はどういうことかしら? 商会の代表者名があなたになっているのだけれど」
フィリップ殿下は、母親の前にふてくされた様子で立っていた。
「まさかあなたがこの商会の代表者だなんて、冗談ですわよね?」
王妃様はゴホンと咳ばらいした。
「この……なんとか商会ですけど」
護衛騎士が一歩前に出ると、ものすごくうやうやしく一枚の紙を高々と掲げた。
『
ご丁寧に読み仮名まで振ってあった。
「私だって字くらい読めます」
王妃様がイラっとしたような声で言ったので、護衛騎士はあわてて紙を巻いてどこかに引っ込めた。
「その……商会にですね、あなたが代表だそうですけど、目の玉が飛び出るほど
高額な請求書が来ています。しかもサファイヤのイヤリングだなんて。あなたが使うのですか?」
彼は言い返した。
「婚約者の為のプレゼントです」
王妃様はキリリと眉をひそめた。
「ちょっと、あなた、いつの間に婚約したの?」
ぎゅうううと、息子の頬っぺたをつねりながら、母親の王妃様は聞いた。
王妃様の傍らには、護衛騎士たちがきれいに並んで、ウンウンとうなずいていた。
「どうして勝手に婚約者を決めたの!」
「母上、痛いです。それに婚約者はまだ決まっていません」
「えっ? 決まってないの?」
護衛騎士たちが、またもやウンウンとうなずいた。
「どういうことなの? 噂によると……」
そう言いながら、王妃様は
「フィリップ王子殿下は、ハミルトン家のハンナ嬢と週一の割合で高級カフェでデートを重ね、毎週高価なドレスをプレゼントし、先日は目の玉が飛び出そうな金額のサファイヤのイヤリングを購入、学園のダンスパーティで付けてくるよう強要した」
王妃様は、殿下を睨んだ。
「どういうつもり?」
「婚約を申し込むところまで、あと少しです。今が頑張りどころなんです!」
王子様は力説したが、王妃様は息子をまた睨みつけた。まだ申し込んでいないのか。
「何を勝手なことを。それだけじゃないのよ。次、行きます。噂によると、ハンナ・ハミルトン嬢は婚約者がいるにも関わらず、他の男と親しくしており、そんなふしだらな状態であるにもかかわらず、アレクサンドラ王女殿下のご学友という立場を利用してフィリップ王子殿下の妃の座を狙っている。そのため、ライバルであるヒルダ・スプリンバーグ公爵令嬢の教科書を隠したり、提出するはずのレポートを盗んだり、馬車の車輪を外して登校できなくして何回も遅刻させたと」
「それはどこからの噂ですか?」
フィリップ殿下が不満そうに尋ねた。
うしろで二、三人の護衛騎士が手を上げた。
「彼らが聞きました」
「誰から?」
「ヒルダ嬢が先生にそう言い訳していたそうです」
もしかして、ヒルダ嬢、頭悪い?
あと、勉強きらいなの?
「母上! なんでヒルダ嬢がライバルなのですか? 僕はハンナ嬢一筋です」
「プッ」
護衛騎士団から思わず失笑が漏れた。
フィリップ王子殿下がそっちを睨むと、彼らはシャキッときれいに整列し直した。
「ハンナ嬢の評判は護衛騎士団が調査中です。しかし、この請求書はどう始末をつけるつもりですか?」
「自分で払えますよ」
フィリップ殿下は軽く答えた。
「何を言っているのですか。収入ないくせに」
王妃様が鼻でせせら笑った。王妃様にしては下品である。
後ろで護衛騎士が一人手を上げた。
「発言を許します」
手を上げた護衛騎士がツツツと王妃様に近づいてきて、うやうやしく紙を一枚差し出した。
王妃様は不審そうにその紙を読んだが、驚いて目をあげた。
「フィリップ、あなたがアルバイトをしていたと?」
「違います。母上。一国の王子がアルバイトなんかする訳ないでしょう! ちゃんとした商会の代表者なのですよ、僕は」
殿下はまたもや不満そうに口答えした。
「フィリップ!」
王妃様が威嚇した。
「ここには、あなたのアルバイト料の一覧が、払った商店の名前と一緒に書いてあるわ。嘘か本当かなんてすぐに確認できるわ」
王妃様は熱心に読み続けた。
「鑑定料? 鑑定って何?」
フィリップ殿下はしばらく黙っていたが、観念したように答えた。
「それは、僕が趣味で、金が本物かどうかですね、鉱物内の金の含有量を測る方法を開発したんです。まあ、隣国のマルク先生と一緒にですが。金の輸入の際には、本物かどうかの鑑定が大事ですからね。調査機関としてはこの国で唯一なので割とお高めの料金を取っています」
護衛騎士団が拍手した。それは確かに素晴らしい。画期的な技術である。
「金玉商会の金というのは、金の鑑定料のことですね」
殿下は得意そうだった。
「じゃあこれは何?
「いやだなあ。果物ですよ。最近はやりの甘くて香りの高いメロンですね。あれを開発しました。王宮の温室で護衛騎士の皆さんに厳重管理してもらいながら、作っています。一玉、5万ルイで売れるんです。すごいでしょう?」
そう言えば……王妃様は思い出した。
一週間ほど前だが、料理番がとても甘くておいしい果物の上に極上のハムを乗せて持ってきた。ハムの塩味とメロンの上品な甘みが絶妙にマッチして、これまで味わったことのないすばらしい味わいだった。
「この国の名産品にしたいと思っています」
「……売れるとは思うけど……それにしても、これだけであのサファイヤなんか無理でしょう」
「金と玉だけじゃないんです。実は一番高かったのはですね……」
王妃様はさらに眉をひそめた。明細書の中に不可思議な言葉が書いてあった。
「世界で唯一の神聖なる壺……って、何の話?」
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