第28話 金玉商会の必然性

「うーん。こうなったら白状しますが、実は僕、雨男なんです」


「雨?」


「そうなんですよ。僕が行くとたいてい雨が降ります」


実は王都は乾燥地帯にある。にもかかわらず、ここ十五年ほどは水に困ることがなかった。

山の方にある貯水池も最近は満々と水をたたえているので、いつの間にか、それが当たり前のような気がしてきていた。だが、王妃様が嫁いできたころは、確かにこんなに水はなかったような気がする。


「乾燥地帯にあなたが行くと雨が降るってこと?」


「そうなんですよ。隣国に半年ほど留学してましたよね?」


隣国は完全な砂漠地帯である。


「僕が行ったとたん、洪水になってしまって」


フィリップ殿下は苦笑した。王妃様は絶句した。

そう言えばそんなこともあったような。百年に一度あるかなしかの大洪水で、隣国は大騒ぎになっていた。


「まあ、水が引いた後は、小麦が山ほど取れました。地味が肥えていたのでね」


「それは……素晴らしすぎるわね……」


王妃様は思い起こした。隣国は大洪水になって、嬉しい悲鳴を上げていたが、確か、フィリップ王子が留学していた時は、こちらでは雨が降らなかった。そう一滴も。


本来、この地方は雨が降らなくても不思議はない。たまたま近年、雨に恵まれただけだ。


「理解できたので、カラカラだったころに土地の領主から使用権を買い占めて、黄金の絨毯みたいになった小麦を刈り取り、高値で売りつけました」


「そんなことして大丈夫だったの?」


王妃様は心配して息子に聞いた。半年しかいなかったくせに大活躍である。


「大丈夫ですよ。刈り取りに来た農民にはたっぷりお礼をしましたしね。領主は悔しがっていましたけど、こっそり聖なる壺を売ってあげました」


「壺?」


それだ、それ。


調べ上げたはずの護衛騎士たちも、異様な響きのある聖なる壺という言葉に興味津々だった。


「あなた、まさか詐欺を働いたのではないでしょうね?」


王妃様が不安そうに尋ねた。

王妃様はほっそりした美女で、年の割に若く見え、二十歳をまわったような王太子がいるようにはとても見えない。国王陛下がぞっこんだと言うのは周知の事実である。

だから結構怖い。王妃様ににらまれたら、国王陛下ににらまれたも同然と言う認識は正しい。


「とんでもない。正真正銘、掛け値なしの聖なる品物が入っています」


王妃様はさらに不安そうになった。


「フィリップ、答えてちょうだい。中身は何なの?」


「僕の髪ですよ」


「髪? あなたの髪なの?」


「そうそう」


フィリップ王子は、黒のカツラを脱いだ。

隙間からシャランと金色の直毛が肩のあたりまで広がった。


「中身に何が入っているかなんて、領主様は知りません。ただ、これを崇めると、ちょびっと雨が降るって、高値で売りつけました」


思い出した。


以前は腰のあたりまであったような。あまりにきれいな髪なので、侍女たちが惜しがって切らせなかったのだ。

留学から帰ってきた時、髪が短くなっていて、王妃は安心したのだが、侍女たちは声をそろえて泣いていた。


「まあ、侍女の皆さんに申し訳なかったので、かつらをかぶることにしました」


「まるで別人だと侍女たちは不満たらたらなんだけど」


「男の僕が長い髪をしててもねえ」


王子は肩をすくめ、王妃様は侍女たちが彼のことをお人形さんみたいと、もてはやしていたことは黙っておこうと決意した。


「それで、髪を一房、外からは絶対見えないように密封した壺に入れて、神の恵みと言って売り付けました」


「なんで密封した壺に入れたの?」


王妃様が好奇心に駆られて聞いた。


「開けられると困るからです」


「なぜ? 髪が入ってるだけよね?」


「僕が御神体になってしまって、解体されたら困るでしょ?」


護衛騎士含め全員がドキンとした。

その通りだ。


「僕が聖遺物とかになっちゃったら命に関わります」


王妃様も冷汗を流した。

やばい。息子、やばい。


「でも、それ、効果あるのかしら? だってあなたが雨男だなんて……」


そう言いながら、王妃様は、この王子が戻ってきてからお天気がどうだったか必死で思い出そうとした。そう言えば、帰って来た日は嵐だったような気がする。


「僕はそのせいで留学から戻ってきたんです」


話はフィリップ王子の留学生時代に遡る。



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