第18話 エスコート役は外国人

そしてあっという間に一週間は過ぎ去り、ドレスは完成した。


例の学園内の秘密の部屋で着替えて、コソコソと使用人専用の門から、カフェ・ブールヴァールへ向かう手筈だ。


「馬車は王家差し回しの地味な馬車で行くの」


前の晩、緊張しながら、マチルダとリリアンは熱心に話を聞いた。

ハンナにも、二人の緊張が伝染うつってきそうだった。


「なるほど、なるほど」


「それから、あの護衛の方は外国の方だったの」


「えっ?」


「外国人なのに、王家の護衛?」


ハンナも、うーんとうなった。

ハンナもそこはすごく気になったのだ。

なんだか訳がわからない。ハンナが派手に変装するだけなのだから、エスコート役だって変装すれば済むと思うのだけど、なぜわざわざ外国の方にお願いするのかしら?

それとも、ジョージが顔を知らない護衛騎士が、外国人しかいなかった、とか?


「こちらの話すことはわかるそうです。でも、護衛の方は隣国の言葉しか話せないらしくて」


二人は熱心に言った。


「ハンナでよかったわ。外国語、得意よね?」


そこまでの自信はない……


「本当は、とても困るのよね。でも、パース公爵夫人のおっしゃることは絶対だし」


もう、なるようになれ! である。


翌朝、ドキドキしながら、ギンギラギンに着飾って、周りを数名の護衛騎士たちに囲まれながら、ハンナは学園の使用人用の通用門から馬車に乗った。

なんで、護衛騎士に囲まれているのかと言うと、完全秘匿のため、黒の幔幕をハンナの周りに垂らすためだった。外からは何が運ばれているのか全くわからない!


暑い。それに前が見えない!

なんで、こんなことをしなくちゃいけないのかしら!


馬車の扉が閉められるまで、厳重警戒は続き、扉が閉まって初めてハンナは大きく息をついた。

が、真向かいの席に全然知らない人物が座っていて、ハンナは危うく悲鳴を上げるところだった。


「どっ、どちら様?」


若い男性で、ハンナは自分が拉致されたのかと思ったが、違う。

すごく高価な服を着ていた。こんな誘拐犯はいない。


しかもよく見るとすごい整った顔立ちの、すごくカッコいい美形だった。

どうしよう……


『嫌だなあ。僕はあなたのエスコート役ですよ』


あああ! しかも外国語喋ってる。


ハンナの胸が早鐘を打つ。外国語と外国人! どうしよう!


『はじめまして。こんにちわ。私の名前はハンナです』


相手は吹き出した。


『知ってます。母国語で大丈夫ですよ。僕はわかりますから』


え、外国語でなくていいの? なんていい人!

いや違う。最初からその約束だった。


『まあ、落ち着いて』


相手はニヤニヤしている。


「私の言ってること、わかります?」


『僕、毎日、学園にいるんですよ? もちろん大丈夫です』


ハンナはまじまじと相手の顔を見た。

相手は照れたようで手を顔にかざした。


『あんまり見ないでください。普段は顔を隠してるんです』


「え? どうしてですか?」


『護衛騎士はみんな顔を隠しています』


あっ、そうか。なんてバカなことを聞いてしまったんだろう!


「そうでしたわね。申し訳ございません。本日はお付き合いくださいましてありがとうございます」


『ん……』


相手は無造作にそう答えると、窓の外を見るように顔をそむけた。


……この態度は、なんと言うか、馴れ馴れしいのか、失礼なのか、それともかなり高位の貴族なのか。


まあ、本日の予定は、この人とのデートではない。ヒルダ嬢とジョージの監視である。


ハンナも、あまり見ないで欲しいと言われたので、おとなしく窓の外へ視線を向けた。


そのあとは何事もなく馬車は無事にブールヴァールに着いた。


『着きましたね』


とても鮮やかに、護衛騎士の方はハンナを手を差し伸べた。

エスコート役を買って出るだけあって、流れるように美しい所作だった。


そしてブールヴァールの門衛も、うやうやしく二人を迎え入れる。


ブールヴァールは客を値踏みすると聞いていた。

実はドレスメーカーはアクセサリーも貸してくれて、あまり宝石には関心がない地味令嬢のハンナにはよくわからなかったが、一見高そうな宝石が胸元と耳には輝いている。


そのせいかしら?


全くなんの問題もなく、完全に初めての客のはずなのに、護衛騎士とハンナは、とてもいい席に案内された。少し引っ込んでいて、こちら側からは店内がよく見渡せるが、店の他の客からは見えにくい席である。ありがたい。けど、スムース過ぎない?


『ハンナ嬢。準備万端です』


護衛騎士が満足そうに言った。

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