第13話 ヒルダ・スプリンバーグ公爵令嬢

ヒルダ公爵令嬢がしずしずと、何かの種類のオーラをまとって現れた時、ハンナは仰天した。


ヒルダ様といえば、大公爵家の一人娘として有名だった。

在学していることは無論知っていたが、公爵家ともなると、ハンナとは格が違う。


お付き合いだなんてとんでもない。そもそも学年が違うので、授業で会ったこともない。殿下とは、またまた従姉弟くらいに当たるのではないかな? 微妙に遠い親戚である。


「フィリップ殿下を紹介してくださらない?」


驚きのまま、礼儀正しく幾つかの言葉を交わした後、要するに要件はコレだった。


「誠に申し訳ございません。わたくしはアレクサンドラ殿下のご学友に任命されております」


フィリップ殿下のご学友ではないので、そんな用事は承りかねる。

出来ないことが分かりきってるのに、なんで頼むのかしら?


「フィリップ殿下の件に関しましては、キャンベル家のジョージ様がご担当でございます」


「そんなことはわかっています」


ヒルダ様は、苛立たしげに手元の扇をパチンと音を立てて閉じた。


「キャンベル家とお付き合いはございません」


ヒルダ嬢の言い方からは、ものすごいキャンベル家を下に見ている感が漂ってきた。

伯爵家のハンナと話すのは構わないのか? 身分違いじゃない?


「殿方に私から話しかけるのは問題ですから、アレクサンドラ殿下の方からお願いしてもらいたいのです」


ハンナは、仰天した。アレクサンドラ殿下を動かそうだなんて、厚かましいにもほどがある。


しかし、目の前のヒルダ嬢はデンとしている。

青い目は飛び出し気味で、取ってつけたような金髪は、文字通り一糸乱れず見事な縦ロールに巻かれていた。

拒否されるなどとは、全く考えていない目つきだ。


ハンナは戦う前から不戦敗を悟った。


なんてめんどくさい。


だから、ご学友なんて嫌だったのよ。

トンプソン先生は、一番身分の高いハンナなら、なんとかなるからと押し付けてきたが、別学年から出張してくるだなんて、聞いてない。


相手は公爵家。機嫌を損ねたくない。一方のアレクサンドラ殿下も、負けずと我を通すタイプだ。


「わたくしに出来ることは、キャンベル家のジョージ様に、ヒルダ様を紹介させていただくことくらいしかございません」


ヒルダ様は鋭い目つきを向けた。


「キャンベル家のジョージ様ですって? あなただって、男性にお近づきになるわけにはいかないでしょう? それともご学友同士は、知り合いだとか?」


ジョージが婚約者だと、言ったものかどうか。だけど、仕方ない。


「キャンベル様は、私の婚約者でございます」


いや、ほんと知られたくないわー。


「まああ!」


ヒルダ嬢は驚いたらしかったが、しばらくしてホホホと笑った。

なぜ笑われたのかわからない。しかし、彼女は機嫌が良くなったみたいだった。


「そう。それじゃ、安全ね。早速お願いするわ」


安全て何だろう? しかし、まず言っておかなければならないことがある。


「あの」


ハンナは用心深く言い出した。


「ヒルダ様、ちょっとだけ話を聞いてくださいませ」


ヒルダ嬢は、めんどくさそうに振り返った。


「ジョージ様に紹介させてはいただきますが、ジョージ様やフィリップ殿下がどう対応なさるかまではわかりません」


「あなたの婚約者でしょう。私を推薦するように言ってちょうだい」


これも言いたくないけど。


「ジョージ様は格上の侯爵家のご子息ですので、あまり私のお願いごとは聞いてくださらないかも知れません」


ヒルダ嬢はギロリとハンナを睨んだ。


「使えないわね! まあ、でも、紹介はするように。言っておくけれど、キャンベル家より、わたくしの家の方が格上ですからね。覚えておくように」


ううむ。ハミルトン家よりキャンベル家の方が格上なんですってば。


ジョージよりも殿下たちの方がまだ話がわかるのではなかろうか。


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