第10話 オトモダチ問題
王子殿下、王女殿下の周りは、大勢が詰めかけて、息苦しいほどだった。特に、まだ入学して初日である。好奇心というより、何かの種類の野心に燃えた面々が、ハンナたちが座るテーブルにジワジワと接近しつつあった。
しかし、ここで威力を発揮したのが例の黒ずくめの護衛騎士軍団だった。
完全に防御してくれた。とことん気が利く。全員ほぼ喋らないけど。
アレクサンドラ殿下のお許しを得て、ハンナは同席したが、座った途端にもうドキドキした。背中に刺さる視線が怖い。
フィリップ殿下と二人だけで食べればいいのに。でも、その方がもっと具合悪いのか。オトモダチの席はもう塞がれていますよ、余計な野心家の皆さんは来ないでくださいね。
そう言う意味かな?
「フィリップも後から来るわ」
これには仰天した。フィリップ殿下は男子なので、もっと自由かと思っていたが、やっぱりダメか。
最も気が許せるのはアレクサンドラ殿下かも知れない。立場同じだし。
しかし、よく考えたら、それはつまりジョージも来ると言うことで、とてもマズい気がする。
ハンナは、ジョージのことは、完全に忘れていた。
今ならジョージがご学友になってしまい、多忙すぎて会う暇がないと手紙を送ってきた理由がわかる。
いや、申し訳なかった。そっけない返事を書いてしまって。侯爵家の令息は爵位が同じという令息がいない分楽かもしれないけど、爵位だけで何でもかんでも押し通すわけにはいかないだろう。意外にご学友同士ということで、仲良くなれるかもしれない。
しかし、その時ハンナの頭にジョージの手紙の文面がよみがえった。
傲慢。不遜。勝手。
ダメかもしれない。というか、ハンナとの婚約より、フィリップ殿下のご機嫌を損ねるんじゃないかしら。その方が心配だわ。
その時、身軽にスッとアレクサンドラ殿下の隣に座った人物がいた。
まさか、これがフィリップ殿下?
ボサボサの黒い硬そうな直毛。髪が目を半分くらい隠している。ぶ厚い黒ぶちのメガネ。それは大きすぎて本来あるべき場所より、鼻を半分くらい通り過ぎて、引っかかって止まっていた。口元はというと、立派な王家らしい襟の高い服を着ているので、顎はもちろんに口元まで襟に埋まっていた。
「フィリップ」
うんざりしたようなアレクサンドラ殿下の声がした。
「どうしてその恰好なの?」
「気が楽だよね」
すらすらと返事が返ってきた。してみると、この方がフィリップ殿下なの?
人相がまったくわからないわ?
「その異様な格好で気が楽になるかしら? 顔が見えないじゃないの」
ハンナもものすごくびっくりしたが、アレクサンドラ殿下の話を聞いて落ち着いた。
多分、学校だけこの格好らしい。話しぶりは普通だった。よかった。
まあ、それにハンナはフィリップ殿下担当ではない。そう言えば、ジョージはどこかな?
「絶対変人呼ばわりされるわ。それにご学友はどうしたのよ」
「断った」
「断ったですって?」
「キャンベル侯爵の令息をですか!」
三人だけで一つのテーブルを占拠して、周りは護衛騎士団がなんとなく警護しているので、他の生徒に聞かれる恐れはない。ただ、みんな興味津々でアレクサンドラ殿下と、フィリップ殿下の異様な格好を見ているけど。
「とても高慢な奴だった。僕にああしろこうしろと命令してくるんだ。そんな奴、要らない」
ああ……とアレクサンドラ殿下がぐったりした。
「フィリップと私はだんだん公務が増えてきて……」
二人はなんとなく浮かない顔つきだった。
「とっても大変になってきたのよね。で、学園に行けば少しは減るかな?って」
これは愚痴かな?
フィリップ殿下もなんだか割と気さくにしゃべり出した。
「アレクサンドラは、隣国の王太子殿下との婚約が決まっている」
衝撃の告白?だったが、ハンナもうっすら覚えていた。思い出した。
隣国の王太子殿下は、武勇に優れた人物でかなり年上だが、アレクサンドラ殿下の容姿をひどく気に入って結婚を心待ちにしていると聞いたことがある。
フィリップ殿下はハンナが思い出したことを察したようだ。付け加えた。
「申し分のないご縁だと言われていて、断りようがない」
フィリップ殿下は
「勉強なんてする気はない。その時間は自由だ。知らない王宮でがんじがらめの生活を送る前に、気楽に遊びに行ったり、蜂の研究とか言って実は蜂蜜入りのお菓子を食べたり、どこかの貴族の娘たちみたいにお芝居に行って騒いだりしたいだけなんだ」
「構わないでしょう? 臣民の暮らしや考え方を知るためよ」
アレクサンドラ殿下が反抗的に言った。
「構わないとも。そして僕はおとなしくしていることが求められている」
「フィリップ!」
アレクサンドラ殿下が咎めるように言った。だが、殿下は言葉を続けた。
「王太子殿下と比べて目立たないように、出来れば劣っているように見えれば、なおいい」
「フィリップ、それがあなたの悪いところよ。王太子殿下とは八才も離れているわ。誰もあなたのことを担ぎ出そうとか考えてないわ。優秀な王弟殿下になって、王政を支える道だってあるし、その方が誰からも歓迎されると思うわ」
「でも、政治なんて関心がないんだ」
「私、あなたを知っているわ。あなたは本当はとても優秀よ」
「興味がない。臣民の考えにも興味はない。ここにいる人たちって、何とかして宮廷に取り入りたい人が多いよね。僕のご学友からして、そんな感じだ。僕を利用しようと言う下心が見え見えだ」
ふんふんとハンナはうなずいた。ジョージのことだな。
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