第8話 ダリア嬢&バイオレット嬢

ご学友問題は当然あっという間にバレて、意欲満々の二人の伯爵令嬢とタイマンを張る機会はすぐにやってきた。


タイマンではない。一人対二人である。


この二人、仲が悪いとか言っていたが、ご学友問題を聞いた途端に同盟を組んだらしい。


「ハンナ様。あなたお一人がご学友だなんて、一体どう言うことなのかしら?」


ダリア嬢の家名は、ヘイ伯爵という。ハンナ同様、王都出身ではない。

彼女は堂々たる体格のイカつい系美人だ。真っ黒な髪と目、ハッキリした目元が印象的だ。

そのイカつい美人が、ありふれた栗色の髪の、なんとなく印象薄めの小柄なハンナに迫ってきた。


「こう言ったことは、殿下を大切に考える者順に任命されるべきではないかと思います。少なくとも、意欲をもって任に当たるべきかと思われますわ」


バイオレット嬢も堂々と宣言した。


バイオレット嬢は、ブラック伯爵の娘だ。名前と違って、亜麻色の髪と薄青い目の持ち主で、背の高い美人である。


ハンナは目をしばたいた。決めるのは王家である。この二人じゃない。


それに、いろいろと失礼な言い分だと思う。

人のことを、王家を大事に思っていないとか、やる気がないだとか。

全部当たっているけど。


そう言うことは、わかってても言っちゃダメでしょう。


「まずは、私たちをぜひ王女殿下にご紹介いただきたいものですわ」


「もちろんご紹介しますとも」


ハンナは言った。


「どなた様も皆平等に紹介させていただきます」


「それはダメですわ」


「えっ? なぜ?」


学園内は基本、生徒は全員平等だ。まさか、自分たちだけ紹介しろとでも?


「ダメに決まってるではありませんか。殿下に失礼な思いをさせないような人選が大事だと思います」


「そうですわ。ある程度、爵位などを考慮すべきです」


自分たちが一番ランクが上だと思っているのだな。


トンプソン先生がハンナを選んだ理由に納得できた。ハンナの家は伯爵家だ。対抗できる。


「ご学友とはいえ、殿下のお友達は、今後、殿下がご自分で決められるでしょう。私は最初のご案内役を言いつかっただけです」


あとは勝手にどうにかなるでしょ?と言うのは飲み込んで、ハンナは続けた。


「身分順に紹介させていただきますから、ご安心くださいませ。私は入学当日のみのご案内係です」


「どう言うことですか? ご学友ではないのですか?」


ハンナは目を伏せてしおらしく答えた。


「殿下にお目にかかったのですが、どうやらお気に召さなかったようでした」


なんだか喜ぶダリア嬢とバイオレット嬢。


本当でもないが、別に嘘と言うほどでもない。


「地味だしね、ハンナ嬢」


去り際に切れ切れにそんな言葉が聞こえたような気がする。

最後まで言いたい放題である。



そして、ハンナは緊張のまま殿下たちの入学当日を迎えた。


婚約者のジョージが以前、忙しくなるので、今後お茶会やらは遠慮したいと言ってきた意味が分かった。ジョージは侯爵家という身分柄、フィリップ殿下のご学友に抜擢されてしまったのだろう。

ハンナにも、トンプソン先生からの指令が次々と飛んでくる。


ハンナは、おとなしく控え目なドレスに身を包み、馬車から降り立つ可憐で美しいアレクサンドラ王女殿下をお迎えした。


「ハンナ嬢、教科書は全部読んだわ」


アレクサンドラ王女は、馬車から降りながら話しかけた。


へー。全教科読んだのかしら。だとしたら凄すぎる。それとも選択するつもりの科目だけ読んだのだろうか。


「殿下におかれましては、科目の選択はお済みになられたのですか?」


ハンナは微笑みながら尋ねた。


「まだよ。だからこそ、教科書は先に読んでおいたの。どれにするか参考になるかと思って」


「素晴らしいお考えですわ。それで、興味のある科目がございましたか?」


一体どれだけの量の教科書を読んだのだろう。なんだか不安。この王女様、なかなか個性的だと思う。ついていけるかしら。


「外国語は家庭教師に学んだから、取らなくていいわ。歴史や地理は一通り勉強済みなので要らないかも。でも、錬金術は勉強したことがないので、取りたいわね。領地経営関連も一通りとってもいいかなと思うわ」


錬金術って科目はなかったはずだ。


「錬金術というのは、もしかして化学の科目のどれかのことでしょうか?」


「多分、そんな名前の教科書でした。あと自然科学を取りたいわ」


自然科学というネーミングの科目もないはず。


「恐れながら、自然科学とはどの科目のことをおっしゃっていらっしゃるのでしょうか」


殿下はケロッとして答えた。


「新設してもらったの。あなたも取らない?」


勧誘されてしまった。


「何を勉強するのでしょうか?」


前回、パース夫人から王宮で説明を受けた時、捕虫網がどうのこうの言っていたような。昆虫がらみだと言うなら、断然お断りである。


アレクサンドラ殿下は目をキラキラさせながら、答えた。


「もちろん、虫よ。私は蜂が好きなの」


ゲ。よりにもよって針があるやつか。


「私は遠慮させていただきます。蜂は怖いです」


ここは頑張りどころだ。たちまちアレクサンドラ殿下の顔が曇った。


「侍女と同じことを言うのね。全くがっかりだわ」


「殿下、学園の良いところは生徒が私一人ではないところです。私が蜂に興味がなくても、大勢生徒がいるのです。昆虫や蜂に興味がある生徒もいると思いますよ」


男子生徒に! あの趣味は理解できないけど。


「そうかしら」


「まずは、生徒をご紹介させていたきとうございます」


「あまり興味はないんだけど」


「殿下は、学園生活のどこに興味がおありですか?」


「好きなことができるところ」


殿下はハッキリ言った。


「王宮ではできませんか?」


「侍女が見張っているのよ。それが当たり前だったのだけど、フィリップが学園に行きたいと言い出して。お付きなしで、あちこち行けるらしいの。楽しそうだなと思って」


これの見張りか! それを委託されたわけか!

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