うなじ
葛籠澄乃
第1話
肩で切り揃えられた緩い黒髪が、首の後ろで二手に分かれていた。
前から見れば、紺に近い黒髪ボブのあなたは本当に可愛らしい。眉下で丁寧に整えられた前髪。睫毛が長く、垂れ目から覗く透き通るような黒眼。ぷっくりとした、けれど作り物じゃない薄桃色の下唇。顎も丸みを帯びていて、高校1年生の15歳よりも中学3年生の15才を思わせる。
それでも頸という鏡では見えないところの首の細さ、白さ、うっすらと見える金色の産毛がなんだかいけないもののように感じた。体育の授業前、堂々と露になった首を見てそう思った。本能的に、ついその頸に触れてしまう。
きゃあ、という声はくすぐったそうな、でも拒否する声じゃない。小さい子が親にちょっかいをかけてくすぐり返される時の、あの甘えた悲鳴に似ている。2人でこっそり見たオトナなビデオの女性たちのような艶かしい声とは全然違う。
「なあに」
「着替えたら、髪結んだげる」
短い髪を、下の方で小さくふたつ結び。頸、よく見える。わたしだけが見たいから、右斜め後ろがわたしのポジション。
うなじ 葛籠澄乃 @yuruo329
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