第10話 魔道具

「ふぁ~あ。いい朝ね」

「・・・そうだな」


 正直、僕は安心して寝ることが出来なかった。まさか、自分の安全が他人任せになることで、これほど周りの気配が気になるとは。おかげで、眠れた気がしない。


「それで、今日はどこへ行くの? このまま森の奥へ進む?」


 シレーヌのせいで眠れていない代わりに、これからの事は少し考える事が出来た。このまま森の奥へ進んでも、一番強いドラゴンはもう居ない。それに、シレーヌのバリアは僕が本気で魔法を使わない限り破壊できないだろう。つまり、ドラゴンであってもそうそうシレーヌのバリアを破壊できない。そして、僕はシレーヌの近くでは魔法が使えない。つまり、森でシレーヌを殺すのは無理だと悟った。なので、もう森の中に居る必要は無い。


「・・・確認なんだが、このバリアっていうのは魔物だけが出入り出来ない魔法なのか? 人間の場合はどうなんだ?」


 シレーヌのバリアは攻撃を加えようとしない限り、僕でも出入りは自由だ。なのに、魔物の攻撃は全く通さない。そして、魔物の場合は攻撃する意思に関係なく入れないようになっている。


「試したことは無いけど、なんとなく分かるわよ。人間は出入り自由ね。魔物の様に害のある存在は弾かれるのよ」

「それなら、なぜ僕は自由に出入り出来る? 魔王だぞ?」

「何を言っているの? アシュレイは魔王の前に人間じゃない。さすがに、人と魔物の区別はつくわよ」


 よし、聞きたいことが聞けたぞ。それなら目的地変更だ。


「今日は街に行こうかと思う。ただ、王都ではないぞ? あそこには勇者が居るからな。さすがに、街中で偶然でも会おうものなら戦闘になるからな」

「そう? それなら、アシュレイに任せるわ」

「お前と一緒に居ると風魔法が使えないから、少し時間はかかるが歩いて行くしかあるまい。ただ、お前の速度に合わせていると街へ着くまでどれだけかかるか分からない。だから、魔道具を作る」


 魔物を倒している時に、魔道具作成を覚えた。魔王の力は魔物を倒し、その魔力を吸収する事で新しく出来ることが増える。実際、アシュレイは何でも出来ていた様に思える。


「出来たぞ。あとは魔石をセットしてと・・・」

「アシュレイって器用なのねー。ちなみに、これって何なの? ただの板にしか見えないけど」


 どうやら、魔道具はシレーヌの近くでも作動するようだ。作る前に確認するべきだったのだろうが、他の魔道具が不調になっていないから大丈夫だと判断していた。


「浮遊板だ。魔石の力を風魔法の力に変換し、多少地面から浮くことが出来る。そして、後ろへ風を起こす事によって前に進むことが出来るのだ。ただ、左右に動く場合は自分でレバーを操作する必要がある」

「乗っていみていい?」

「いいぞ」


 シレーヌは恐る恐る浮遊板に乗る。


「どうやって動かすの?」

「魔石の近くにあるボタンを押せば動き出す。止めるときは、もう一度そのボタンを押せばいい」

「分かったわ」

「スピード調整は、板の前にあるスイッチで調整できる。今は、早い、普通、遅いの3種類だけだがな」

「じゃあ、試しに―――うきゃー!?」


 シレーヌはボタンを押して起動させた瞬間、高速で真っすぐ進み、止める間もなく木に激突する。どうやら、スイッチの位置が早いになっていたようだ。これは改良する必要があるな。スイッチにその場に止まる機能を追加しよう。


「大丈夫か? 死んだか?」

「このぐらい、平気よ。そう簡単には死なないわよ」


 聖女の力なのか、怪我らしい怪我も無い。ちっ、この激突で死んでくれれば良かったのに。

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