第9話 想定外

「はぁ、はぁ、はぁっ。僕は、自分が思っているよりも愚かだったようだ」


 僕は計画通り聖女を森へ誘う事に成功した。そして、あとは魔物に襲わせればいいと考えていた。そんなさっきまでの自分をぶんなぐってやりたい。


「あいつ、バリア張れるんだった・・・」


 現れたウルフは、予定通りシレーヌへ襲い掛かる。しかし、薄い膜によってシレーヌに近づくことが出来なかった。代わりに、僕の方に来たので軽く片付けようと思ったら――


「そして、シレーヌの魔法が使えなくなる範囲、思ったよりも広かった・・・。僕は、あと少しでウルフに食われるところだったよ」

「ごごご、ごめんなさい! 余裕そうに森の奥へ進むから、自分で対処できるのかと思っちゃったわ」


 魔法を使おうとして使えないことに気が付き、何とか走ってシレーヌから離れ、魔法が使えるようになった瞬間にウルフどもを風魔法で切り刻んでやった。それまでに、擦り傷を負ってしまった。


「お詫びに、回復するわね。――聖なる力よ、彼の者を癒したまえ」


 一瞬、魔王の僕にはダメージになるのではと思ったが、擦り傷は跡形もなく消えたので安心した。それにしても、僕って魔法が無かったらこんなに弱かったのか。くそっ、それならもう少し剣術も鍛えるべきか。それと同時に、人を斬る事も出来るようにならないと。


「ふぅ。これで怪我は無いわね。それじゃあ、そろそろ暗くなってきたし、寝る場所を作りましょう?」

「僕はその辺で寝るから、近づくなよ。お前が近づくと、僕の自動防御魔法が発動しなくなるんだからな」

「それなら、私が休む場所を作るわ。そうすれば一緒に居られるでしょう? ホーリー・サンクチュアリ」


 シレーヌは、少し開けた場所に向けて魔法を使う。すると、小さな教会の様なものが作られた。


「へぇ、便利な魔法だな。ただ、中まで明るいって事は無いよな?」


 光魔法なのか、建物は少し光っている。それが中まで光っていたら眠りにくいだろう。


「多分大丈夫よ。私が先に確認するわね」


 シレーヌが中に先へに入る。大丈夫だったのか、僕を手招きする。しかし、僕が建物の中へ一歩足を踏み入れたら激痛が走る。


「あばばばばばっ!」

「きゃあ!」


 僕は、体から煙を上げながら建物の外へ弾き飛ばされる。


「こ、殺す気か?」

「そんな。まさか、私以外が入ると自動で攻撃するだなんて・・・」


 シレーヌは慌てて僕の近くに座ると、さっきの回復魔法を再び使う。怪我は癒えたが、攻撃された事実は消えない。


「お前、実は僕の事を暗殺するつもりじゃないよな?」

「そんなつもりは全く無いわよ。思ったよりも不便なのね、聖女の力って」


 シレーヌは、自分の力のくせに融通が利かないと腹を立てる。実際に被害を受けた僕の方が腹ただしいのだが、シレーヌを殺すためにはあいつにとって一緒に居たい人物にならなきゃならない。

 さもなくば、僕の方が殺されてしまう。思った以上に、魔法を封印されることは僕にとって天敵となり得ることだった。さらに言えば、あいつは僕に殺気を全く向けていない。つまり、先ほどの攻撃も、全く悪気が無いのだ。せめて殺気があれば躱せるものを、自覚が無いまま攻撃されるから始末に負えない。


「やっぱりお前、僕から離れろ」

「嫌よ。一緒にバリアを張ってあげるから、そんなこと言わないでよ」


 シレーヌは僕から離れるつもりは無いようだ。その場合、僕は魔法が使えない。仕方ないので、シレーヌのバリア内で寝る事にした。





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