第8話 計画
「僕が街へ入る時は、勇者を殺す時だ。つまり今、僕が街へ入ればこの街は戦場になるぞ」
僕はシレーヌを言葉で脅す。すると、シレーヌはさすがに何か思うところがあるのか、眉を寄せる。
「人を殺すのは良くないって教わらなかったの? それに、私が生きている間はそんなことさせないわ。例えあなたが誰かを殺したとしても、私が生き返らせるもの」
「なんだと? 蘇生魔法・・・伝説の魔法が使えるのか?」
「そうよ。だてに聖女ってわけじゃないわ」
僕の予定が狂う。勇者を殺しても、聖女が生きている間は生き返らせられてしまう。それでは、復讐が出来ない。かといって、僕が聖女を今この場で殺す事は、さっき出来ないと証明されてしまった。
「――アシュレイを生き返らせられる・・・?」
僕はシレーヌに聞こえない小さな声でつぶやくが、即座に首を振って自分でその考えを否定する。聖女が魔王を生き返らせるわけが無い。仮に脅すなりなんなりで生き返らせさせたとしても、勇者が生きて居る限りいつ再び殺されるか分かったものでは無い。
「・・・計画を練り直す必要が出て来たな。シレーヌ、良かったな。僕は今日、街へは入らない。だから戦闘は起こらない。静かに森へと帰るさ」
僕はわざわざシレーヌにそう伝える。まだどうすればいいか分からないから、いい案が考え付くまではこの仮初の平和を堪能させてやろう。
「それなら、私もアシュレイに着いて行くわ」
「は? 僕についてくるだって? 冗談にもほどがあるだろう。どこの世界に魔王と一緒に居る聖女が居るって言うんだ」
「私が最初になるのかしら? よろしくね、アシュレイ」
「よろしくじゃない! 家族が! 友達が! 知り合いが! そいつらがどう思うか分かりきっているだろう!?」
「そんなの居ないわよ。だって私、記憶が無いもの」
「記憶が・・・無い?」
僕は、シレーヌの不意打ちでもたらされた情報に思考が停まる。シレーヌは、記憶が無いと告げた今もニコニコとした表情だ。
「僕を動揺させるための嘘か? 記憶が無いなら、どうして自分の名前や言葉が話せる?」
「知らないわよ? 名前は、さっき思いついたの。言葉が話せるのは、自分でも理由が分からないわ。ただ、聖女として出来ることだけは本能の様に分かるのよ」
つまり、聖女として活動するのに困らない事は出来るという事か。―――聖女の使命もか? それならば、僕と一緒に居たいというのも分かる。だって、聖女の目的は魔王を殺す事なのだから。
ただ、それならば何故、先ほどの無防備な状態の僕を殺さなかったのか?
「いいだろう。一緒に連れていってやる。ついてこい」
「本当? よかった。私、街への入り方も分からなかったのよね」
「何を勘違いしている? 行くのは森だ。街へは行かない」
「へ? 森って・・・危なくないの?」
「お前がどう言おうと、僕は森へ帰る。それが出来ないならここでお別れだ。じゃあな」
「ちょっと待って! 着いて行く、森へ着いて行くからここに置いてかないでよ」
僕は、とっさに思いついた計画が成功してほくそ笑む。シレーヌが言った通り、森は魔物が生息しているため危険だ。だから、僕が直接手を下さなくても、魔物が勝手に聖女を殺してくれる。あとは、森の奥へ連れていって放置するだけだ。
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