第3話 ホブゴブリンの襲撃
「そうだ、私の名前はアシュレイ。彼の名前を貰う」
魔王アシュレイ。魔王とは名ばかりの、私の優しい家族。その力を引き継いだ私は、彼の名前を使う事にした。
「一人称も、彼に合わせようかな。うん、僕はアシュレイ。魔王、アシュレイだ」
そう言いつつ、15歳にしては小さな自分の胸部を確認する。うん、よく男の子に間違われるわけだ。髪も短いから特に間違われやすい。けど、今は男だと思われる方が都合が良い。
「彼の名前が悪名として残るかもしれないのは残念だけど、彼の名前が誰の記憶からも失われるのはもっと嫌。全人類の頭に刻み込んでやる、魔王アシュレイの名を」
私――いや、僕は森を駆け抜けながらそう宣言する。森には魔物が生息している。魔物は魔王が産み出した配下だと言われているけど、それは間違いだ。魔王は魔物を産み出さない。だから、魔王が死んだ今も魔物は残っている。
「当然、僕にも襲い掛かってくるよね」
僕は目の前に現れたウルフにそう話しかける。返事の代わりに、ウルフが吠えた。ウルフは3体。群れで動くウルフにしては数は少ない。けど、ただの平民だった僕では例え一体だったとしても喰われて終わりだっただろう。
「だけど、今の僕にたった3体で勝てるって思ってる?」
僕は最初に襲い掛かってきたウルフの首を右手で掴むと、他の一体に向かって投げつける。そして残った一体にこちらから近づき、顎を蹴り上げる。身体能力が強化された僕の蹴りは、一撃でウルフの顎を砕いた様だ。
さらにさっき投げつけ倒れているウルフの頭を踏みつける。ウルフの頭蓋骨が砕ける音がして絶命する。最後の一体は、首をもって投げつけた時に、すでに首の骨が折れていた様ですでに死んでいた。
「あっけないなぁ。一応、アイテムボックスに仕舞っておくか」
解体なんてした事無いので、そのままの状態でアイテムボックスへと仕舞う。そして、再び森の奥へと駆ける。
「特に目的地も無いまま進んでいるけど、このまま魔物と戦えばいいのかな?」
3体のウルフを倒したことで、少しだけ魔王の力が引きだせた気がする。この調子で倒していけば、そのうち本物の魔王の力となるのだろうか? そして、どのくらいなら勇者を倒せるのか。もし、アシュレイが力のほとんどをあの水晶に込めていたのだとすれば、恐らくちょっと強い騎士くらいの力しか残っていないはずだ。
「彼の力は、全然こんなものじゃない。けど、全力を見た事も無いんだよね」
少なくとも、僕の前で本気を出したことは一度も無かった。けど、本気の彼はこの世の誰よりも強いと確信している。だから、僕は確実に勇者を。いや、この世界を滅ぼせる力を得るまで力を蓄えるんだ。
多少の魔物を倒しながら森を進んでいると、いつの間にか朝になっていたようだ。薄暗い森の中だと、時間感覚が分かりにくい。
ドーンッ
遠くで、何かがぶつかった様な音がする。方向からして街道の方だと思うけど、向かうかどうか迷う。今の僕が行く意味があるのだろうか。しかし、彼なら――。
「ぐっ・・・、いいさ。行ってやるよ。行けばいいんだろ!」
誰に言い訳しているのか分からないけど、彼なら、アシュレイなら絶対に向かったはずだ。
僕は音のした方へと走る。数分も走れば到着するはずだ。
街道が見え、その近くの樹に馬車が衝突しているのが見える。そして、その馬車の周りで冒険者らしき男たちとホブゴブリンと思われる魔物が戦っていた。
「くそっ、どうしてこんな街道の近くにホブゴブリンなんかいやがるんだ!」
「そんなこと今言っても仕方ないだろ!」
ホブゴブリンはゴブリンの進化した姿で、ゴブリンの数倍強い。一体だけなら冒険者数人で楽勝だと思うけど、今はホブゴブリンの方が数が多い。つまり、自由に動けるホブゴブリンが居るのだ。そして、そいつは馬車の方へと向かっていた。
「誰か、馬車を守れ!」
「くそっ、邪魔するな!」
冒険者の一人が馬車に向かおうとするが、ホブゴブリンが邪魔をする。馬車に着いたホブゴブリンが、持っていた棍棒を振り上げて――
「とうっ」
僕はホブゴブリンを蹴り飛ばす。とうも、この力を得てから乱暴な性格になったようだ。
蹴り飛ばされたホブゴブリンは、ゴロゴロと街道まで転がっていく。ただ蹴ったくらいでは死ななかったようで、ゆっくりと起き上がってくる。
「誰かは知らないが、助かった! 頼む、馬車を守ってくれ!」
「えーっ。どうしよっかなー」
僕は、素直に冒険者の言う事を聞く気にはならなかった。だって、無関係の人間だし。
「報酬ならあとで必ず払う! だから!」
僕は正直、所持金が少ない。仕事で稼いだお金は、ほぼ宿代と食事代で消えていくからだ。それなら、ここでお金を稼いでおくのは悪くない。
「本当? もし嘘だったら、許さないからね?」
「ああ。俺の命に代えても!」
この冒険者集団のリーダーらしき人物から言質を取ると、僕はさっきのホブゴブリンが落とした棍棒を拾う。そして、次に近づいてきたホブゴブリンの棍棒を躱し、代わりに棍棒を開けた口に食わせた。棍棒に喉を貫かれたホブゴブリンが倒れる。
「一丁上がり~」
しばらくして、冒険者に何人かの負傷者が出たものの、ホブゴブリンを全滅させる事には成功した。
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