第2話 旅立ち

 泣き疲れていたみたいで、気が付くと私は少し眠ってしまっていた。すでに外は暗くなっている。


「これから、どうしよう」


 いつもなら、魔王が相談に乗ってくれているけど、今はもう居ない。そう、居ないんだ。


「魔王・・・。私、一体どうしたらいいの」


 再び涙で視界が滲むが、もう泣きたくなかった。魔王は、私の笑顔が好きだった。だから、私は出来るだけ笑顔で過ごしていきたい。


「けど、無理だよね。そう、もうあの日々は戻らないんだ」


 私は部屋にある荷物を片付ける。すると、魔王が残したものと思われる水晶玉が、いつの間にか私の荷物の中に紛れ込んでいた。


「これ、何だろう?」


 どう使うのかは分からないけど、取り合えず取り出した。すると、自動的に魔王の声が私の頭の中で再生された。


「最初に、これは僕の力のすべてを込めた結晶だ。僕はもうすぐ勇者に倒される。これは運命として決定づけられていて回避する事は出来ない。だから僕はこれを君に残す。すぐに使いこなす事は難しいだろう。けれど、必ず君の力になる事を約束する」


 魔王の声だ。私はこの結晶をぎゅっと抱く。しかし、結晶はすぐに私の体に取り込まれ始めた。


「待って、まだ――」


 スキルを獲得しました


 私の体に結晶が取り込まれると同時に、頭の中にそう音声が流れた。魔王は様々なスキルを持っていた。魔術、体術、剣術、そして――アイテムボックス。


 そのスキルの内、アイテムボックスが使えるようになったと直感で分かった。余韻の中、さっそく私はアイテムボックスに荷物を片付ける。


「この街を出て、力をつける。そして・・・勇者に復讐する」


 私は、窓から闇夜へと飛び出した。結晶のおかげで、身体能力が上がっている事が実感できる。


 きっと、魔王は私に復讐して欲しいだなんて思っていない。だって、彼は優しかったから。


「けど、私にはもう復讐以外に生きる意味なんて無いんだ」


 今までの自分をすべて捨てて、復讐の為に生きると誓う。それが例え誰にも喜ばれることが無いとしても。


「新しい名前も考えなくちゃ・・・。そして、今度この街に戻ってくるときは、勇者を倒す力をつけたときだ」


 私は、人目につかない場所を選んで城壁まで辿り着く。そして、向上した身体能力を使って壁を登る。街の外は、魔物も徘徊する危険な場所だ。だからこそ、私は力をつける。復讐する力を。


 城壁から飛び降り、すぐに森へと走る。これだけ暗ければ、誰にも見つからずに済んだはずだ。


「待っていろ、勇者。彼の仇は必ず私がとる」


 私は、星の瞬く夜空に向かって叫んだ。

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