第4話 宣戦布告

 戦闘音が聞こえなくなったからか、馬車に乗っていた人物が降りてくる。豪華な服を着ていて恰幅がいい姿から、恐らく身分の高い人物なのだろう。


「この馬鹿騎士ども! 貴族のワシに怪我を負わせるとは何事か!」


 降りてくるなりそう怒鳴る。あれだけ大きな音を立てて樹にぶつかったのなら、確かに怪我をしていてもおかしくないけど、見た目からそれほど大怪我をした様子は無い。

 それなのに、命を懸けて戦っていた人たちを馬鹿にするなんて。それにしても、冒険者だと思っていた人たちは騎士だったのか。


「子爵様。こちらがホブゴブリンの襲撃から我々を助けて下さった方です。まずは謝礼を」


「ふん。見た所、平民では無いか。なぜワシが平民などに頭を下げる必要がある? 平民なら貴族であるワシを助けるのは当然の事だろう。ワシを助けることが出来た名誉に感謝して欲しいくらいだな」


 僕は、こんな奴を救うために戦った訳じゃ無い。胸の奥にふつふつと、どす黒い感情が渦巻いていく。


「子爵様! せめて報奨金を。助命の代わりに、私の命に代えても支払うと約束いたしました」


「勝手な約束事など知るか。・・・ふん、まあいい。だが、今は持ち合わせがない。ワシの屋敷まで取りに来い」


 子爵は偉そうに・・・いや、実際偉いんだけどそれを命の恩人に対して言うのか。やはり、この世界はクソだ。人類なんて、生かしておく価値は無い。


「・・・炎よ、焼き尽くせ」


 僕は、ホブゴブリンを倒したことで魔術が使えるようになった感覚があった。怒りに任せ、目の前の子爵を馬車事焼き払う。


「貴様、何をする!」


 騎士が慌てて僕に近づいてくるが、もう遅い。僕はその騎士にも手を向ける。


「・・・風よ、切り刻め」


 風の刃が騎士の全身を切り刻む。僕は、生き残った騎士たちをリーダーらしき人物を残して皆殺しにした。


「こんなことをして、死罪は免れないぞ!」


「死罪? それがどうした。僕はこの世界を、勇者を殺す為に生きると誓っているんだ。そうだ、お前だけは生かしてやる。この僕、魔王アシュレイの存在を報告させるために。王へ伝えろ、魔王アシュレイが、人類に対し宣戦布告したと!」


 僕はそう言い捨てると、風魔法で速度を上げて森の中へ再び立ち入る。もう、何も気にする事は無い。僕は、魔王殺しと握手する事は永遠に出来ないのだから。

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