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 味噌汁の後のチョコレートは美味しかった。

 どうやらこの魔法使いは今日が煮干しの日だけではないということは知っていたらしい。料理に関しては魔法を使えない彼女も今日は頑張ったようだった。

 生クリームがたっぷり入った彼女の手作りチョコレートは、いままでで食べたチョコの中で一番美味しかった。

 なんでこんなに美味しいチョコを作る魔法を使えるのに、味噌汁を作る魔法は使えないのだろうか。

「だってこのチョコは生クリーム入れて固めただけだもん。生クリームは煮干しと違って睨まないもん」

 煮干しの日を持ち出したのも彼女なりの照れ隠しであったらしい。

 照れを隠す魔法も使えない不器用な魔法使いがものすごく愛おしく感じられるのだった。

「ねえ」

 もじもじと手遊びをしながら彼女が僕の裾を引っ張る。

「急にキスがしたくなった」

 ん。

 軽く頬を染めた魔法使いの唇に僕は軽く口づけした。

 甘かった。

 甘かったけど、この甘さはきっと彼女がくれたチョコの甘さだと思う。

「ねえ」

ん?

 魔法使いが僕の手を握る。雪女かと思うほど彼女の手はだんだんではあるが、暖かくなってきていた。

「結局さ。私は君がいれば居心地がいいと思うんだ」

 僕は何も言えなかった。

「私は居心地のいいところにいたい。おそらくそれには君が必要なんだ。それが離れていようと、あまり会えないだろうと――ね。逆に君がいなきゃ私は魔法が使えないんだ。だからずっと私のそばにいて欲しいな……って」

 魔法使いの顔は真っ赤になっていた。それを隠すように今度は向こうから唇を重ねてきた。

 やっぱり甘かった。

 だけど、今度はチョコの甘さだけじゃないと思う。

 別に美味しい味噌汁が作れる魔法はいらない。ただ僕にはこの魔法使いを回復する能力がもしかしたら身についたのかもしれない。

 唇がすっごく甘くなってきた。当分甘い物はいらない……と思った。

 だけど、僕にはこの甘さが必要なのだ。この魔法使いを守るためには――。

 守るべき魔法使いを思いっきり抱きしめる。鍋の中の味噌汁は完全に冷え切っていた。


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