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「ねーねー。正月っぽいことしようよー」

 僕らはこたつに入り、ただテレビを見ていた。テレビではドラマの再放送がやっている。

 このドラマを全く見たことなかった僕らは、この男女が何で泣きながら抱き合っているのかがさっぱりわからないので、適当にチャンネルを変えながらだらだたとテレビ鑑賞を続けていた。

 千里さんは書き初めに飽きたようだ。先ほどの書き初めもどきは紙飛行機にされた上にどこかへとばされてしまった。

 なんでそこまで正月らしさにこだわるのか今の僕には理解できない。

なんだよ。正月っぽいことって。初詣とか?

「人が多くてつかれちゃうから初詣はパス」

 なんてわがままな魔法使い、もとい、正月らしさ評論家だろう。

「初詣は行きたくないけど巫女さんはみたいなー」

 そう言いながら魔法使いは書き初めもどきで作った紙飛行機を投げる。紙飛行機は漫画の詰まった僕の本棚に当たると、そのまま床に静かに落ちた。

「初詣といえばずっと前から思ってることがあるのだけど」

 千里さんは紙飛行機を拾い上げてこたつの上にそっとおく。

「巫女さんっているじゃない? あれってなんでいるものなの? にぎやかし?」

 にぎやかしってことはないとは思うけど。単純に神のつかいだったと僕は思うのだけど。

「その神の使いがおみくじ引かせたり。お守り売ったり、巫女カフェで接客したりしているわけ?」

 最後のは、また別のケースだと僕は思うけど。

「けど、一回あの格好してみたいんだよね。巫女さんの服」

 僕は巫女服姿の千里さんを想像してみる。僕の頭の中の千里さんはだぶだぶの巫女服を着ている。おみくじの紙を取りに行こうとして裾を踏んでころがる千里さん。

 お守りを売るときにおつりを渡すのを忘れて裾を踏んでころがる千里さん。

 巫女カフェでお客さんを席へと案内するときに裾を踏んでころがる千里さん。

 そんな千里さんが僕の頭の中をぐるぐる回っている。

 可愛かった。

 魔法使いスカウターはもう測定不能の域まで達していた。たぶん「500億かわいい」以上ではあると思うのだが――。

「どっちにしろ私は裾ふんでころがるの?」

ちっちゃいから。千里さんは。しょうがないよ。だって――ちっちゃいから。

「ちっちゃいちっちゃい言わない! 私の背はこれから延びるんだから。空よりも高く、海よりも広くなるのー」

 うん、それは一般的に化け物と呼ばれます。

ねえ、初詣には行かないとして、一応君にも夢みたいなものはあるでしょ?

夢ねえ。

「そうだよ。私にばっかり夢聞いちゃってさ。君のも教えてよ」

夢かー。うーん。

「テーブルクロス引きで世界を征服したい、とか可愛らしい目標にしたらどうなの」

 どこが可愛いんだか教えて欲しい上に、どうやったらテーブルクロス引きで世界を征服できるんだか教えて欲しい。そしてテーブルクロス引きはもういいから!

「そんなに文句ばっかり言わないで教えてよ。君の夢」

 夢か……。確かに子どもの時は一杯叶えたい夢があったかもしれない。

 戦隊もののヒーローにも憧れたし、ゲームを作るクリエイターにもなりたかった。

 中学、高校に上がったら上がったで現実的な夢があった気がする。

 弁護士にもなりたかったし、エンジニアにも憧れた。またお金持ちになって大豪邸に住みたい――という夢もなかったわけではない。

 だけど今、もし僕がひとつだけ願いごとをするとしたら――。


こんばんは。夕方五時のニュースです。


 いつの間にかドラマの再放送が終わり、夕方のニュースの時間になっていた。カメラは東京の池袋を映している。


今、ここ池袋ではクリスマス・イブを一緒に過ごそうというカップルで溢れかえっています。


 カメラがスタジオに戻されるとアナウンサーが「やっぱり、みなさんクリスマス・イブには恋人と過ごしたいものですよね。私達は仕事ですけどね」という自虐なんだか文句なんだか笑いを誘ってるんだかよくわからない一言を残して次のニュースに行ってしまう。

千里さん、世間はみんなクリスマス・イブを外で過ごすんだってさ。

「そうみたいだねー」

たぶん、僕たちみたいにお正月気分でいる人間は少ないと思うよ。というよりいないと思うよ。

「だろうねー」

 そう言うと彼女は右頬に笑窪を作って笑った。


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