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「ねえ、見て! くらげみたいだよ。ほらほらっ!」

 確かにくらげみたいだな、って思った。

 発砲スチロールの容器の中では円形の丸いものであふれかえっている。何も知らない人がいきなり見たらこれがなんだかはわからないだろう。

 そしてその答えを聞いても納得しない顔をするのだろう。

 これがコンビニのおでんだってことを――。


はんぺん?

「そうはんぺん!」

 僕らはまだ「夢」の話を続けていた。

 子どもの時に夢見たこと――、きっと千里さんも小さいころには夢の一つもあったはずなのだ。

 お花屋さん、獣医さん、ぬいぐるみ屋さん。

 少女らしい可愛い夢を抱いて育ってきたのだろうと想像していたのに、実際に彼女の口から出た夢には少女らしさが微塵にも感じられなかったのである。


「おでんのはんぺんだけを食べたい」


 小さな時から本気でそんなことを思っていたらしい。

ねえ、千里さん。嘘つかないって言ったよね。指切りしたよね。

「本当だよ! 嘘じゃないって!」

 僕はためしに彼女の目をじ――っと見つめる。

 今度こそ本当のようで、彼女の目は泳いではいなかったし、僕の真面目な顔に吹き出すこともなかった。

 これが本当だとしたら彼女はどんな幼少期を送っていたんだろうと正直心配してしまう。

「君。一番おでんの中で好きな具は何?」

え、ウインナー巻きかなあ。

 ちょっと大の男が口にするには恥ずかしい具だが、好きなものは好きなのだからしょうがない。

「じゃあ、想像してごらんよ。お皿一杯にウインナー巻きが盛られている様子を――」

 今は亡き、イングランド・リヴァプール出身のロックバンドのボーカルみたいな口調で彼女は僕を諭す。

 ――ごめん。想像してみたけど、お皿一杯のウインナー巻きじゃあ兵士は銃を捨てないと思う。ていうかそれはおでんじゃなくて、ただのウインナー巻きだし。

「ね、幸せな気分になってきたでしょ」

いや、こないけど。

「私の場合はね。それが大好きなはんぺんが一杯あるって考えるの」

 僕の回答は無視ですか。そうですか。

「もう考えただけで幸せだよねー。それが私の子どもの時からの夢」

……へえー。

「何、そのいかにも興味ない感じ。君が聞いてきたのだよ?」

 千里さんは頬を膨らませて見せた。ふくれっ面はらぶん「500億かわいい」くらいに匹敵するな。

ごめんごめん。お詫びに君の夢を叶えてあげるよ。

「ほえ?」

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