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僕の胸に包んでいた魔法使いは少しずつ落ち着いてきたようだった。身体の震えがだんだんと治まってきていた。
「ねえ、もう一回だけ魔法をつかっていい?」
僕はこくんと頷く。
「目の前の男の子はみんな目の前の女の子の手に手袋をはめたくなるの。そんな魔法」
僕はそっと彼女の手をとる。
冷たくってすべすべしていて何よりも柔らかかった。
たぶんこの世で一番柔らかいんじゃないかって思えるほどだった。
「――くすぐったい」
それは魔法じゃどうにかならないの。
「ならない」
笑窪が浮かんでいた。僕はそこに自分の唇を押しつける。
やっぱり彼女は驚いていたけど、お返しに自分の唇を僕の唇に押しつけてきた。これも柔らかかった。この世にこんなに柔らかいものが二つもあるなんて。
今のは、唇を重ねたくなる魔法?
僕がそう言い終わる前にもう一回柔らかい唇が僕に飛び込んでくる。
「そんな魔法かけてないよ」
笑いながら彼女は僕の手を握ってきた。
「今かけたのは、このまま私のアパートにあがってお茶を飲みたくなるって魔法だよ」
確かに喉が渇いてた。やるもんだね。魔法使いってやっぱりすごいよ。
僕らは手をつないで彼女のアパートに向かった。どうやら魔法使いは僕という仲間を手に入れたみたいだ。
そして僕は仲間として彼女を敵から守らなくちゃいけない。
どんな敵がいるかわからない。邪悪な魔王かもしれないし、意地悪な魔女かもしれない。
どうやって彼女を守ればいいかわからない。うまくいくかどうかもわからない。だけどきっとどうにかなるだろう。なにせ彼女は魔法使いなんだから。
僕はもう一回彼女の手をぎゅっと握る。遠くで小さく猫が鳴く声が聞こえた。
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