第13話

その5




美しいと言った律也から届く目線…。

その目をユウトも見つめ返した

しばし、二人の間には沈黙が漂った。

だが、二人は目と目で何かを語っていたのかもしれない…。



***



おそらくユウトにしたら、同級生である彼の口から出た今の言葉は、あまりに予想外のフレーズだったのであろう。

角度を変えた言い方をすれば、彼にとってショッキングなコトバだったと…。



たいていの人間からは、”凄い、見事、カッコいいetc”…

まあ、概ねそんな通り一遍の麗句がほとんどで、律也からもそんな想定でいたに違いない。



ところが、あまりに意表を突く、律也からの感想と真顔とどこか思い包まれた目線…。

かくして、青島ユウトの琴線はあっけなく弾かれてしまうのだった…。



***



気が付くと、隣に掛けたユウトとの距離は極端に狭くなっていた。

ユウトが律也に寄って、律也も引きつけられるように寄っていく。



”カラダがくっついた…”



程なくして、二人の体が密着した。

先に手を突っ込んできたのはユウトの方だった。

ジーパンのポケットに左手をそっと…、だった。



律也は心臓が破裂しそうなくらい胸が躍り、緊張し、興奮した。

さらに、彼の指先がズボン越しからすでにその奥へと察するに至り、彼の意識は朦朧となる。



なれど、ここで律也も右手をユウトの履いている、やや汗の滲んだジャージのポケットにしっかりと潜りこませていた。

それは、何故かヌルっとした感触だった。



***



「河合君‥、仲間とココを出た後、戻ってくる。それで、いいかい?」



そう切り出したユウトは顔がやや紅潮して、律也にも彼の高揚感が伝わってきた。



「わかった。ココで待ってればいいか?」



対する律也もユウトの目をじっと見つめながら小声で確認した。



「うん。すぐだから…」



ユウトは長椅子からすっくと立ちあがると、またニコッとして、仲間の元に駆けていった…。

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