第12話

その4




律也が長椅子に座って待つこと10分…。

辺りが騒がしくなってきた。



”彼らだ…。遊戯室から出てきたんだ”



案の定、バク転に興じていた8人のうち5人と、取り巻きの少女6人が笑い声をあげながら、エントランスに入ってきた。

そしてその中にユウトの顔もあった…。



「ああ、トイレ行ってくるわ」



「オレも…」



「私たちも…」



律也は彼らのそんなやり取りを確認すると、一旦顔を下に向け、先ほど借りた本を読んでるフリをした。

しかし、耳はしっかりとそばだて、ユウトの気配を負うことに集中している。



彼の結論はでた。

ユウトはトイレに入ると…。



***



ここで彼は顔を上げた。

そして次の瞬間には、彼と目が合っていた。



ユウトはすぐに気づいてくれた。

すると、白い歯をのぞかせた例のスマイルを浮かべ、右手を上げてこっちに会釈してる。

それを受けた律也も、ちょこんと頭を下げて応えた。

こちらははにかんだ、やや引きつった笑顔で…。



***



彼は隣の友達に何やら言葉をかけたあと、律也の座っている長椅子に向かって小走りしてきた。



「やあ、また会ったね」



彼は気さくに声をかけてきた。



「うん。今日は調べ事があって、本を借りに来たんだ。図書館は家から近くないし、この雨だから…」



律也は、”ここにいる”理由と動機と必然性をにユウトに語告げた。

まずもっては。

手にした宇宙の本をかざしながら…。



***



「へー、そうなのか…。ああ、宇宙の本じゃん。そういうの、興味あるんだ‥」



”キミにはもっと興味があるんだ!”



これが律也の本音だったが…。



「オレも結構好きだよ、宇宙人とかも(苦笑)」



律也は思わず吹き出すように笑った。

そんな彼を見届けると、ユウトは律也の隣に座ったのだった…。



***



「オレ、さっき見たよ。キミのバク転…」



彼が腰を下ろしたと同時に、律也は正直にそう言った。



「そうか。で…、どうだった?」



「美しかった…」



この言葉は自然と出た。

しかも、意識せずにユウトの顔を真顔で見つめながら…。

純な二つの瞳を以って…。




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