第11話
その3
彼はもう食入るように、入口の扉から顔半分の状態で、その推移を見守った。
まさに固唾を呑んで…。
黄色のポロシャツに白のジャージを履いた小柄だが、均整のとれた弾力性を感じるユウトはしきりに体のあちこちを動かしていた。
周りはマットから一歩、二歩下がりながら、ユウトに何やら声かけしたりしている。
そして、律也から見て、背を向けた体勢になると、もう一回大きく屈伸してから、姿勢を正した。
数秒後、彼の体はふうっと、軽やかに高々と舞い上がると、柔軟な体はバランスよく後転を切って、その着地はまるで猫のように見るも鮮やかなものだった。
”パチパチパチ‥”
少女たちからは一斉に拍手がおこった。
着地後のユウトは、仲間全員とハイタッチだ。
あのさわやかな笑顔で…。
”すげー…。今のユウト、言葉にならないほど美しい…。ステキだ…”
約20Mは離れた場所から、たった今その一部始終を目に収めた律也は、もうノックアウトされた。
ウットリだった。
***
だが、彼は冷静にこの後を捉えられた。
ユウトの美技を見届けると、律也は遊戯室の入り口から引き返し、児童館のエントランスにある長椅子に越しかけた。
正面約10M先にはトイレがある。
ここからなら、遊戯室から出てトイレに向かう人間の後ろ姿が丸見えなのだ。
そう…、彼はここで待機する方策に出たのだ。
”たぶん、彼らはしばらくすれば遊戯室を出る。帰り際、必ずトイレに入る。ユウトも…。ただし、一人でってことはない可能性の方が高い。それでも、声かけするネタは今できた。友達と一緒でも、今日はユウトに声をかける…‼”
ここに来て、律也の思いは固かった。
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