第3話 そいつは栞にとんでもない物をはさむ奴だった③

 あんまり眠れなかったし……コンタクトを入れるのも辛い私は月曜の朝からメガネ女子だ。


 教室はシンと冷え切っているけど……あと30分もすれば朝練で温められた思春期の息遣い達で……ここの空気の温度も上がっていくのだろう。


 それが“青春”ってやつ?

 死語の世界だよ

 少なくとも

 この私には……


 自分の席に両手を置いて


 深いため息をつくと


 背後に……

 ひっそりと気配がした。


「??」


 振り返ると


「うわっ?!! 小町??!!」



 だって!

 小町ったら!


 凍り付いた天使の様に

 茫然と立ってるんだもん!


「どうしたの?!」



「神代君、今日も試合で“三ツ沢”だからさ……預かって来た。梓に渡すはずのマンガ本」


「そんなの!! どうでもいいのに!! 小町、ごめんね……私、アンタたちの邪魔は絶対しないから!!」


 顔で小町は激しく頭を振った。


「違う!違うの! 初めから分かってたの! でも……アプローチも何もしないで後悔したくなかったから……」


 そう言って小町は私の胸に顔を埋め物凄い勢いでわんわん泣いた。


 その熱量で……教室の空気が少し溶けたが幸いまだ他には誰も来ていない。


「どういう理由であれ親友の小町を泣かせるなんて、アイツ成敗だ!」


 悲しみとどこかで安堵と期待と……分析すると嫌になる自分の心に揺すぶられて涙声になりながら、私はマンガ本を受け取ると……

 中に四つ折りになったルーズリーフが挟み込まれている。


 目を通して私は思わず吹き出した。


 そして涙に濡れても美しい小町の瞳を覗き込んで合図して


 ルーズリーフの手紙を読み上げた。


 。。。。。。


 梓サマ!


 陰毛


 すみませんでした。


 あと、いろいろと


 綾野さんにも

 失礼な事

 してしまいました。


 梓の親友だけあって


 とても素敵な人で


 情けない話だけど

 背中を押してもらって

 こうして


 告白します


 梓!!


 ずっとずっと好きだから


 これからも


 嫌われたくないから


 陰毛剃ります


 食べこぼしもしません。


 また部屋に行っていいですか?


 。。。。。。



 途中までは涙声で読んだけど……



 これで終わり??


 小町と二人顔を見合わせる


『「尻切れトンボだよね~」』



 すぐにスマホでガンガン呼び出したら聖也が出たので一言


「剃るって言ったって信用できないから今夜、ウチに来な! 私がガシガシに剃ってやる!! 来なきゃ絶交だかんね!」


 電話の向こうで


「えーっ!!??」

 って叫び声がしたけど構わずブチン!と切ってやった。


 傍らの小町は茫然としていたけど


 軽くため息をついた私を見て弾かれたように笑い転げた。


「今の今まで、『恋なんてもうたくさん!!』って思ってたけど……私、絶対!!誰かとまた恋する!! 恋ってこんなにも面白いだもん!!」


「アハハハハ」と

 私はちょっと笑い声を引きつらせる。


「小町も『断髪式』に参加してリベンジする?」


「アハハ! 悪いけどパスパス! 昔のオトコの見たって仕方ないもん!」


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