11. あの人

それから3日がたった。俺はコーヒーと煙草でイラつきを静めながら金についての書類作成をしていた。計算は苦手だ。世話係に頼もうかとも思ったが、彼はあいにく別の案件で外出していた。

ようやく終わったころ、部屋にルーグが来た。

「失礼します。」

彼はうつむいていた。俺はどうすればいいかわからなかった。

「オーナー、その、」

「……なんだ。」

「あの、ごめんなさい。」

「なんのことだよ。」

「だって、僕が噛んじゃったせいで……」

俺はため息をついた。

「俺の方こそすまなかった。」

「……」

「……………おいで。」

ルーグはゆっくりとこちらに来た。俺はその小さな体を抱きしめるしかなかった。


 新しく入ってきた三つ子は世話係に懐いていた。彼らは俺に話しかけてくることはなかったが、たまに視線を感じた。俺を気にしているのだと思った。


この頃館には10人ほど客を相手する従業員がいた。その他に食堂の調理係や世話係などがいる。俺はきっと嫌な上司だった。俺には友人と呼べる人がいなかった。

「なぁ、」

「なんです?またルーグくんのことですか?」

「お前は前オーナーが死んだとき、どう思った。」

「どう思ったって………まあ、人はいつか死にますから。」

世話係は掃除の手を休めて俺を見た。

「あの人も人間だったんだなあって。」


「オーナー、俺もいつか買われていくのか。」

「お前は多分売れ残るだろうな。可愛げが無い。」

「……」

「事実だろ。」

「でもそれを好んでくる客がいるのも事実だ。結局俺のおかげでボロ儲けしてんだろ。」

オーナーは鉱山の大人たちに似ていたが、その大人たちとは違った外道だった。

「…………おい。お前またタバコ吸っただろ。」

「客が吸ってただけだよ。」 

「嘘つくな。お前何回前科あると思ってる。」

「どうだっていいだろ。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る