6. スノードロップ
オーナーの部屋にあったプライベートなものは全て売るか捨てるかした。ただ一つを除いては。
俺は一週間のうちはじめの3日でやるべきことを終え、残りの4日を自らの休養に当てようとした。しかし思いの外やることは無かった。人事の調整をはじめの2日で終え、3日目、俺は自室に篭った。
仕事は休みでも、館は休まない。従業員は基本住み込みで働いているので、食堂や掃除係はシフトを遵守して働いてくれた。
狭い自室には、新しい花瓶にスノードロップが一輪生けられていた。あれから滅多にこの部屋に戻っていなかったが、世話係はきちんと掃除をしてくれていたらしい。心の中で彼に感謝した。
その日はからっと晴れていた。異様に煙草は不味かった。それにもかかわらず、気づけば俺は2箱を空にしていた。俺はどこにも行く気がしなかった。ベッドに五体を投げ出して天井を仰ぎ、意識が遠のくのを待った。やっと寝られそうになったとき、瞼の裏にオーナーの死に顔が映って、たまらずまた振り出しに戻される。俺は眠れない夜の対処法を知らないふりをした。
その夜、俺はどうしても眠れずにいた。何かしなくては、と、よくわからない焦りで冷や汗が出て気持ちが悪かった。その時ふと机の上に置かれた小さな瓶が目に入った。オーナーの部屋にあったものだ。俺はその瓶を開けた。開けた途端、ふわりと甘い香りが部屋に広がった。
俺はとてつもなく悔しくなってすぐに蓋を閉めた。
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