4. 所有

部屋にはオーナーと俺だけが残された。

「おい。」

頭上から声が聞こえる。

「自業自得だな。」

目隠しのせいで彼の顔は見れない。

ビリビリとガムテープが外される。

「ありがとうございます。助かりました。」

俺は冷静を装った。

「平気か」

「まあ。仕事ですし。」

何故か目隠しは取ってくれなかった。取ろうとすると両手を掴まれる。

「あの。早くシャワー浴びて飯食いたいんすけど」

言い終わらないうちに口が塞がれた。あの甘い香りが脳にしみた。舌を絡め取られ、頭がクラクラする。俺は抵抗しなかった。いや、できなかった。

オーナーが離れたかと思うと、彼に抱えられる。

「ご褒美だ。」

彼はただそれだけを言って俺を運んだ。その部屋のベッドの上に放り出される。

「ちょっ……なにするんですか」

「俺が欲しかったんだろ?」

「そんなばかな……」

「そうだと言ってくれ。」

俺は何も言い返せなかった。手は掴まれていなかったが目隠しを外して逃げようとも思えなかった。彼の声は、聞いたことのないほど寂しかった。

「ああもうめんどくせえな。俺に拒否権はないんだろ。」

彼は笑った気がした。

その夜は長いようで短かった。俺は何度も意識を失いかけた。彼が満足するまでは終わりそうもなかった。それでも、不思議と嫌ではなかった。

***

「おい、起きてるか」

「ん、はい」

「今日からここで働け。」

「…………は?」

俺は自分の身分を反芻した。

「え?ちょっと意味がわからないんですけど。」

いつの間にか目隠しは取れていた。オーナーの姿を改めて見て、なんとなく後悔する。視界って重要なんだな。

オーナーはそんな俺の様子を気にも止めず、言った。

「言い方が悪かったな。今日からお前は客を取らず、俺の隣で働け。」

3秒ほど、ラグがあった。3秒後、俺は絶望した。最悪だ。

「え、嫌です」

「なんでだ」

「えー。なんとなく。」

「でもお前に拒否権は」

「あーあーあー、聞こえないー。」

俺はふざけた。ふざけることで自我を保った。だがそれでも帰る我というものはあった。改めてオーナーの顔を見た。

泣きそうな顔をしていた。俺はなんだか可愛そうな気がしてきた。俺は妥協した。

「煙草と、外出許可を」

「煙草?それはダメだと…」

「それさえくれるなら。」

オーナーは悩んでいるようだった。それがなんだか可笑しくて笑った。その時初めて俺は人間と寝たのだと思った。

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