3. 弱いものほどよく群れる

また連れて来られたのはオーナーの部屋だった。ノックをして入る。

「座れ。」 

部屋の一角。応接用のソファに座らされた。

オーナーは俺の姿を見るやいなや怪訝な顔をした。

「なんです?ちゃんと家にいましたよ。」

「その顔はどうした。」

「昨日あんま寝れなかったんで。」

「そうじゃない。血が出ているぞ。」

彼はそう言うと俺の頬を拭った。

「世話係からも聞いた。花瓶を割ったのか。」

俺は素直に頷いた。

「暇だったので、部屋の模様替えをしようと思ったら、手が滑ったんです。」

すらすらと言い訳が出てきた。

彼は絆創膏を俺の頬に貼ると、少し考えるようなそぶりをみせた。

「今日は客からの指名が来てるが、これじゃあな………」

俺はすました顔をした。早く煙草が吸いたくて仕方がなかった。この甘い香りが脳を侵食する前にそれを上書きしたかった。

「向こうがいいなら俺は出れます。」

すました顔のまま俺は言った。

「傷物のほうがそそるかもしれない。」

オーナーは何か言いたげだったが、シャワーを浴びてくるようにとだけ言った。

シャワーをあがると、いつもの衣装を着せられ部屋に通された。ここで客を待つのだ。休日を挟んでいるので久しぶりな感じだった。少しして、扉が開く。

「よお、兄ちゃん。」

ぞろぞろと5人の男が入ってくる。

見知った顔だった。

「なんだい、あのときの威勢はどうした」

「ちょっと気分が悪いので。」

男はニヤリと笑った。

「そりゃ大変だな。ところで、お前につけられた傷、まだ痛むんだがこれはどこに請求すりゃいいんだ?」

「さぁ?威勢よくほえてた過去の自分にでも言えばいいんじゃないですか?」

刹那、リーダー格の男に胸ぐらを掴まれる。

「最近のラブドールはよく喋るんだな。感心だ。」

「それはどうも。」

「調子に乗ってんじゃねえぞ。この状況わかってんのか。」

リーダー格の男が後ろの男たちに合図をするやいなや、彼らは俺の体を押さえつけた。

「ふーん、そういうプレイがお好みで。男とするのは初めてですか?」

「ふん、お前の方こそ、調子に乗ったことを後悔するんだな。」俺は抵抗しなかった。というより、できなかった。彼らから発せられる殺気のようなものを感じ取ったからだ。それでも助けを呼ぼうとか、怯えた素振りをすることは自分自身が許さなかった。

「おい、お前ら。こいつを動けなくしろ。」

俺は黙って彼らのなすがままにされていた。

どれくらい時間が経ったかわからない。

「くっ……うぅ……」

俺の口からは情けない声しか出ない。体はびくりとも動かなかった。両手両足をガムテープで縛られ、床に転がされている。口には猿ぐつわまでかまされ、視界も奪われた。

「へぇ、結構可愛い声で鳴くんですね。」

「ああ、最初は暴れてたが、今はおとなしくなってるぜ。」

「ふーん、やっぱりこの店に来て正解だったかもね。」

耳元では下卑た笑い声が聞こえる。

俺は体をまさぐり始めた手を受け入れた。気持ち悪さと悔しさは思いの外少なく、ただよくわからない安心と高揚に満たされていた。

「ねぇ、今どんな気分?」

耳元で囁かれる声に体が震える。

「最高だよ。」そう言ってやった。

しばらくすると、別の男の手がズボンの中に入ってきた。俺は反射的に蹴り上げようとしたが、やはり拘束されていて思うようにいかない。

「あれ?意外と反応いいじゃん。もしかしてこういうことされるの初めて?」

否定はできない。今までは客の相手と言っても、主導権は俺が握っていた。こんなふうに弄ばれるのは初めてのことだ。それが心地よかったのか、俺はまた体の力を抜いた。

それから何時間か経過しただろうか。部屋の中は俺の息遣いだけが響いていた。

「お客様」

聞き覚えのある男の声がした。オーナーだ。

「お時間です。」

「うるせえな。こいつが反抗的な態度を取るから、教育してやってんだよ。ああ、そうだ、延長だ、延長。追加料金は払ってやる。」

「申し訳ございませんが、もう閉店のお時間ですので。」

「あぁ!?」

「どうか、本日はお引き取りくださいませ。」

長い沈黙が流れる。声の感じから、オーナーが頭を下げているのがわかった。

「お客様。」

「わあったよ。すいませんでした。」

男たちはそのまま去って行った。

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