4 再会
その日も水曜日だった。
大きな雨粒が窓を打ち付ける、強い雨が降る日の夜のことだ。
とある歌番組を見るともなしに眺めていた時、とんでもない衝撃が僕を襲った。
艶のある黒髪ロングと、気の強そうな少しつり上がった目。どこかで見たことがある顔だな、という僕の第一印象は、彼女の歌声を聴いて確信へ変わった。
彼女だ、彼女に間違いない――。
初めて出会った頃から、10年の歳月が流れていた。
彼女は本当に、歌手になったのだ。
何とかして連絡を取りたいと僕は思ったのだけれど、どのように連絡を取れば良いのか皆目検討もつかず、ひとしきり途方に暮れた。
考えに考えてようやく思い付いたのが、所属事務所に手紙を送る、という方法だった。今どき古風なやり方だが、これくらいしか連絡をとる術がない。
該当の歌番組の出演者リストから彼女の名前を見つけ、さらに彼女の名前を頼りに所属事務所を検索した。ファンレターなんて生まれて一度も書いたことがなかったから、念には念を入れてファンレターの書き方までインターネットで調べた。
当たり前だけれど、どこの馬の骨とも分からぬ男から届いたファンレターなぞ、本人に届く前にマネージャーの検閲を受けて破棄されてしまうかもしれない。
そうならないように、できるだけ当たり障りのないシンプルな内容にまとめた。電話番号やLINEのIDも書いていないし、返事がほしいというようなことも書かなかった。客観的に見て今の僕は彼女にとって、本当にただの一ファンでしかない。
そもそも、彼女が僕のことを覚えているのかどうかも分からない。
僕が手紙を投函してからひと月ほど経った頃、見慣れない封筒がポストに届いていた。見たことのない筆跡。裏返すと、彼女の名前が書かれていた。
逸る気持ちを抑えて手紙を開けてみると、白い便箋が一枚と、何かのチケットと思しき長方形の紙片が入っていた。便箋の方に視線を走らせる。
“お手紙ありがとう。あたしを見つけてくれてありがとう。
今度ワンマンライブをやります。よかったら聴きに来て下さい。”
彼女は僕との約束を守ってくれたのだ。
今度は僕が彼女の約束を守る番だった。
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