【美しい牝馬に心奪われて】

半ば諦めていた私はその牝馬を見つけた。

草原で草を食む美しい牝馬──。

その仕草の一つ一つが私の鼓動を高鳴らせる。



「ぬぅ……私は変態か……。牝馬に欲情するとは……欲求不満の度が過ぎるではないか……。」



あらぬ所に熱を感じ、自己嫌悪に陥るスーリヤ。


あれは普通の馬。

草を食む普通の馬だ。


だが──。


その牝馬から目が離せない。

いつまでも眺めていたい。


なぜだ……?


手に入れたいと思った。

あの牝馬を自分のモノにしたいと思った。


家畜としてではなく自分のモノに──。


そして気づいた。

自分のこの感情の理由に。


あれは──

あの牝馬は──


サンジュニャーだ!



「サン──!」



声をかけようとして口を噤んだ。

彼女は私と子供達を置いて姿を消したのだ。

また逃げ出さないとは限らない。


その理由が分かるまでは……他人のふりをしておこう。

私は牡馬に姿を変えて彼女に近づいた。



「こんにちは、お嬢さん。食事をご一緒しても?」



「こんにちは。お腹が空いてるのでしたらどうぞご自由に……。ここは誰の物でもないみんなの草原ですから。」



そう言って彼女はクスクス笑っていた。


それならばと私は草を食む。

彼女を視界に捉え、様子を見ながら食事をした。


そのつもりだったのだが……。

草の意外な美味しさに、気づけば夢中で食べている私がいた。



「随分とお腹を空かせていたんですね。」



驚いた様子の彼女に言われ、ハッとした。

私は空腹だったのだ。

ろくな食事もせず、彼女を探し回っていたのだから……。



「これはお見苦しいところを……。ここ数日あまり食事をしていなかったもので……。」



気まずそうに答えると、彼女は心配そうに尋ねてきた。



「あの……、何かお悩み事でも……?私でよければ力になりますよ?」



「それは有り難いが……。これは自分で解決するしかない事で……。」



「そうですか……。でも、私に出来そうな事があったら言って下さいね。」



その優しさを嬉しく思いながら、逆に嫉妬もしていた。


サンジュニャー……

君は他の男にもそうやって……

私以外の男にも優しく接して………


彼女は好きな男が出来て私から逃げたのだろうか。

その本心が知りたい……。



「では……貴女の事を聞かせて頂けますか?私の悩みの参考に……。」



「え?ええ。私でお役に立てるなら……。」



嫌がる素振りも見せずに彼女は答えた。

君は会ったばかりの男に自分を曝すというのか……?

更なる嫉妬が込み上げる。

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