【チャーヤーの限界】

自分はサンジュニャーの影。

この子は自分の子ではない。

母親として育てて来たが、もう耐えられない。


どうして私がこんな事をしなければならないの?

一時しのぎならまだしも、一体いつまで身代わりをしていなければいけないの?


子供の世話。

スーリヤの世話。

夜のお勤め。


自分の子でも夫でもないのに。

どうして私がそこまでしなければいけないの?


どうして?



モヤモヤと考えるチャーヤーの視界には、ハサミを持って侍女を追い回すヤマの姿があった。



我が子でもない他人の子。

義理で育てた他人の子。

黒髪に執着する他人の子──。


チャーヤーの何かがキレた。



「いい加減にして……」



チャーヤーが小さな声で言った。

それは絞り出されたような声。

侍女とヤマは気づかず走り回っている。


それが余計に彼女を苛立たせた。



「いい加減にして!何なのよあなた達は!」



その怒鳴り声に動きが止まった二人。

怒鳴られたのは初めての事だった。



「は、母上……?」



侍女よりも驚いているのはヤマ。

いつも優しい母親が、ものすごい顔で睨んでいるのだ。



「母上なんて呼ばないで!あなたなんか息子じゃない!」



その言葉にショックを受け、持っていたハサミを落とす。

ハッとした侍女が、ヤマの様子に気づいて肩を抱いた。



「奥様!?それはあんまりです!こんなのちょっとしたいたずらですよ!?」



「そのいたずらに振り回されて助けを求めて来たのは誰!?」



キッと睨まれ言葉に詰まる侍女。

この騒ぎを聞きつけ、部屋の外には侍女達が集まっていた。


そしてスーリヤも駆けつける。

何事かと侍女達を掻き分け、部屋に入ろうとしたその時だった。



「この子は変態なのよ!黒髪に興奮する変態なのよ!あなたなんか──黒髪で首を絞められて萌え死にすれば良いんだわ!」



「サンジュニャー!?君は息子に何を言って──」



部屋に飛び込んだスーリヤは違和感を覚えたた。

母親が息子にあんな事を言うはずがない。

サンジュニャーの顔を見れば気まずそうな顔をしている。



「すまないが……サンジュニャーと二人きりにしてくれないか?」



侍女達にそう告げて人払いをするスーリヤ。

二人きりになった部屋の中で、彼は静かに尋ねた。



「それで……君は誰なんだ……?いつから……成りすましていた……?」



「何ヶ月も前からです……。」



聞いたスーリヤは目を見開く。

サンジュニャーは妻だというのに。


この女性と何度も身体を重ねていたのに……気づかなかった自分が情けない。



「は……はは……私は……夫……失格だな……」



眉間をつまみ、かぶりを振って座り込む。

その姿を見て、チャーヤーはすべてを話そうと決意した。

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