【見事な影武者】

いつも通り、数時間で帰ってくるだろう。


チャーヤーはそう思い、良き妻良き母としてサンジュニャーのふりをしていた。

だが、時が経つにつれ不安になる。



「奥様……遅いわね……。」



いつもと違い、行く先も用件も告げずに彼女は去った。

馬に姿を変えて森の中へと駆けて行った。



「まさか……」



嫌な考えが浮かんだ。

かぶりを振り、その考えを追い払う。



「大丈夫……。日暮れまでには戻るに決まってる……。」



一人頷き、チャーヤーはサンジュニャーとして時を過ごした。



時は経ち、日暮れとなる。

サンジュニャーは戻らない。



「やっぱり……戻らないつもりで……」



彼女が戻らなければ、自分は自分に戻れない。

ずっとサンジュニャーに成りすましていなければならない。


スーリヤの妻として、夜の相手もしなくてはならない。



「そんな大役……」



いっそのこと逃げ出そうか……。


だが、妻の不在を補う為に自分がいる。

ウシャスだけでなく、サンジュニャーまで失ったら──


太陽は光を失うかも知れない。


その不測の事態を避ける為に、自分はこの世に存在する。

チャーヤーは使命を全うしようと決意した。



そしてサンジュニャーが戻らぬまま、月日は過ぎて行く。


だが、誰もその事実を知らない。

チャーヤーは見事に影としての役割を果たしていた。


子供達も、そしてスーリヤも彼女をサンジュニャーだと思っている。

それ程までに、チャーヤーは完璧な影武者だった。


だが、チャーヤーにも限界が訪れる。



「奥様!お助けを!」



助けを求められ振り向くチャーヤー。

侍女が何かから逃げて来る。



「どうしたの?そんなに慌てて……。」



「坊ちゃまがハサミを!」



そう言いながら、チャーヤーの後ろに隠れる侍女。

直後、ハサミを持った息子が姿を現した。



「ヤマ!?ハサミなんか持って何する気!?」



後ろの侍女を庇いながらチャーヤーが叫ぶ。

ヤマはハサミをシャキシャキ笑っていた。



「何で逃げるの?くれたって良いじゃない。」



「嫌です!私の自慢なんですから!」



侍女が頭を隠して泣き叫ぶ。



「切ったって伸びるでしょ?ねぇ、ちょうだいよ。」



「嫌ですったら!奥様お助け下さい!」



二人の会話を聞いて、状況を把握したチャーヤーはため息をついた。


髪の毛大好きヤマくんが、綺麗な黒髪を持つ侍女の髪の毛を狙っていたのだ。



まあ創作ですが(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る