【三界の王に儂はなる!】

「出来たぞ、インドラ。これなら奴を倒せるだろう。」



トヴァシュトリが黄金の武器を渡す。


それは聖仙の骨から作られた金剛杵こんごうしょヴァジュラ。

父親から譲り受けた奪った稲妻を放つ事ができる。



『木・石・鉄・乾いた物・湿った物』



このいずれにもヴァジュラは当てはまらない。

すなわち、ヴリトラを傷つけられる武器である。



「うむ。では参るか。今度こそヴリトラを倒してやるわい。」



和平条約など知るものか。

要はヴリトラを倒せば良いのだ。


インドラは出発した。

抜け穴をついてヴリトラを倒す為に。



「何の用だ?和平条約を結んだばかりじゃねぇか。」



「知った事か!ぬしを倒し、雲の牛を解放するんじゃ!覚悟せい!」



突撃するインドラを、余裕で迎えるヴリトラ。


条件に守られている自分は不死身だ。

傷つく事は無いと鼻で笑っていた。



だが──。



「ぐっ!な……なぜ……攻撃が……」



受けないはずの攻撃を受け、愕然とする。


そんなヴリトラの顔を見て、インドラが豪快に笑い出した。



「はっはっはっ!今は夕暮れ時じゃあっ!」



「なっ、なにい!?」



ヴリトラは自分の言った条件を思い返す。



『インドラは昼も夜も俺を攻撃できない』



今は昼でも夜でもない夕暮れ時……。

しまったと思いながらもヴリトラは攻防する。



「だからと言って俺は簡単にやられない!再試合といこうじゃないか!」



再び激しい戦いが繰り広げられた。

だが、今回は早々に決着がつく。



「ぬしの弱点はここじゃあ!」



ドカッと突き刺さったヴァジュラ。

そこはヴリトラの口だった。



「ガッ、ガハァッ!」



弱点を突かれた巨大な蛇龍。

倒れる様はスローモーションのようで……。



「死におったか……?」



足でツンツン確認する。


その死を見届けたインドラは、投獄されていた雲の牛雨雲を解放した。



雲の牛雨雲が解放された事により、地上には大雨が降り注ぐ。


大地は潤い、食糧となる作物が芽吹き始め、人々は飢えから救われた。



インドラがヴリトラを倒す事によって、水が供給されたのだ。


そしてこの戦いは毎年繰り返される。

復活したヴリトラを倒し、水を供給するインドラ。


ヴリトラは乾燥した夏。

インドラは雷を伴う雨期。


それらの象徴である二人は、毎年戦いを繰り返している。



ヴリトラを倒した事で、インドラは三界の王となった。

そんな彼は、アスラ魔神の陰謀から人間と動物を護っている。


また、雨を運ぶ者である事により、豊穣の神として崇拝を受ける請求権を、ある程度は持っていた。


そしてインドラは、他の神々からその肩書きを決定的に奪うのである。

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