【彼女を見つめる為に】

「重いっ、重いわっ、あの視線!」



じ~っと見つめられる重圧感に、耐えられずに一人叫ぶサラスヴァティー。



彼の事は嫌いじゃない。

だがあの視線には我慢できない。


気が付けばブラフマーが自分を見ている。

まるで監視されているみたいだ。



「う、また視線を感じる……。」



振り向けば、にっこり笑うブラフマーの姿。

サラスヴァティーは深~いため息をつく。



「ねえ、どうしてそんなに私を見るの?」



「愛しい貴女をずっと見ていたいからです。」



そう言った彼の眼差しはとても優しくて。



「その眼差しは好きだけど……目が合うまでの視線は嫌い……。」



俯く彼女の頬を、そっと静かに撫でるブラフマー。



「振り向いて欲しくて見てるんですよ。それと、他の男が近づかないように。まだ私だけの物にはなってませんからね、サラスヴァティーは。」



嫉妬と独占欲。

嬉しいが、束縛されるのは嫌だった。



「嫌いったら嫌いなの!もう私を見ないで!」



見てくれるなら優しい眼差しが良い。


少し頭を冷やして欲しくて、彼女はブラフマーの視界から逃げ出した。



ブラフマーの背後に回ったサラスヴァティー。

彼はその場を動かない。

振り向かないブラフマーを見て、ほっと胸を撫で下ろす。



「そのまま動かないで……。しばらく貴方の視線から解放して……。」



「動きはしませんが……私の目からは逃げられませんよ。」



「え、どういう──」



次の瞬間サラスヴァティーは悲鳴を上げた。



「きゃーーっ!何で顔がっ!?」



背を向けているブラフマーの後頭部に、ニョキッと頭が一つ現れた。

その顔が、にっこり彼女に微笑みかける。



「ね?逃げられないでしょう?」



「う……何で……?どうやって顔を……」



「創造神に不可能はありません。」



自らの身体を創り変えるとは恐ろしい。



「いやっ!少しは解放して!」



顔の無い右側に移動する。

だけど、そこにも顔が現れます。



「やだったらやだ!」



今度は左に逃げました。


でもやっぱり顔が現れて……ブラフマーは前後左右、4つの顔を持つ事になりました。



「わ、これでずっとサラスヴァティーを見ていられますね。」



自分で増やしておいて喜んでます。



変態……

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