第19話

「これで.....終わったんですね」

 ある晴れた日、槻本と天国はレガシートーキョーの屋敷の近く、しめ縄が巻かれた大きな大きな岩の前にいた。


 天国の手には布で包まれ、木箱に入れ垂れた小さな刀。それは今回の未曽有の大事件「連続政治家斬りつけ事件」を引き起こした青年の霊が持っていた物だった。


 天国が彼を祓った際、彼が消失した後に残された一本の小刀は警察に押収され、調査が行われていたが、(点)当然のように何もわからなかった。そのご調査が完了した小刀は「しっかりと供養したい」という天国の要望でここレガシートーキョーで保管されていた。


「そうだよ。彼の未練が残らないように、この刀を供養すれば今回の事件は終了だ」

 せっかくだからと見学に来た槻本の少し前にいる天国は、木箱を地面に置き、そばに小さな穴を掘った。


「ここにいつも埋めてるんですか?」

「ああ。ここは昔、多くの生き物の霊が祀られたところみたいでね.....浄化するにはちょうどいいんだ」

 歴史に詳しくない槻本は曖昧に頷き、少し離れたところから土を掘る天国をじっと見つめていた。




「これで.....大丈夫だね。さあ、槻本君、君も一緒に祈ってくれないかい?」

 少しの後、木箱をしっかりと埋めた天国は、あの時の除霊用の太刀、「ヤスツナ」を取り出した。それを地面に置くと、槻本に近くに来るように促した。


「......わかりました、数珠とかいりますか?」

「いや、手を合わせて、祈る気持ちだけで十分さ」

 槻本も天国のすぐ近くまで歩き、木箱が埋められた場所の近くにしゃがんだ。


「じゃあ、始めるよ」

 天国は静かに手を合わせ、目を閉じた。少し後ろにいる槻本も同じように手を合わせ、祈りをささげた。しばらくの間、静寂が二人を支配した。





「ところで君もいい判断だったね。遠井さんをしっかり逃がしてくれて助かったよ」

「そんな......褒められるようなことではないですよ」

 警視庁に帰ると言った槻本を見送る途中の天国がふと口を開いた。あの夜、遠井を現場から遠ざけて無傷で保護した槻本は上司や対策室メンバーからお手柄だと褒められた。しかし実際のところはそれしかやれることがなかったのだ。


「僕も......もっと天国さんの役に立てるようになりたいです」

「おや、頼もしいことを言ってくれるじゃないか」

 槻本の呟いた言葉に天国はくすりと笑った。


「まあでも......私いなくてもいいような世界になればいいのだけれどね」

 天国は近寄ってきた精霊をなでながら呟いた。


「そのためには、今現世に彷徨う付喪神を祓うことが必要だからね。私も頑張るとするよ」

「僕も......微力ながら協力します」


 もっと天国の役に立てるようにしよう、槻本改めて決意し、地下鉄に乗り込んでレガシートーキョーを後にした。

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付喪ノ怪 新萌 @ni_moe

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