第2話 ストレスフリーな世界へ
(目的地周辺です、案内を終了いたします。)
カーナビから、機械的な女性の音声が流れた後、
店長(*組織のコードネーム。本名 ナオト)は
『みかん、もうすぐ着くぞ。』と助手席で爆睡しているみかんに告げた。
アスファルトの道路から脇道に入ると、山の中腹にある一軒家が見えた。
車を玄関の前にある空き地に停め、眠気眼のみかんをゆすり、
『行くぞ。』と声掛けした。
3日前
『えー、また出張。しかも今回は車で。面倒臭ーい!』
『仕方ないだろ急遽決まったんだから、しかも政府案件だ。』
『ちなみに、何県なの?』
『秋田県のA市だ。』
『えっ、まじ秋田県のA市。行くわよ。』
『どうしたんだ、急に?』
『ところで、ちょっとお願いがあるんだけど。。。。』
結局、みかんにおじいちゃん家に事前に寄って欲しいと懇願された。目的地の近くなので問題なかったが、確かみかんは、自分も運転するからって言ってたよな。
まあ、いいけど。。。
みかんの両親に会ったことも無いのにいきなりおじいちゃん家に訪問なんてなんだか緊張するな、気難しい人だったら面倒くさいなあ。
店長(ナオト)の思いは杞憂に終わった。おじいちゃんは気さくな方で温かく迎えてくれた。玄関から居間につづく狭い廊下を歩いた時、前を歩いていたみかんの足元に白いネコが『ニャー』と言いながらすり寄って来た。
『おー、クール!元気にしてた。久しぶり。』と言いながらみかんは抱きかかえた。
クールはゴロゴロとのどを鳴らしながらみかんの顔を見つめていた。みかんが顔を近づけると、クールはみかんの鼻をペロペロ舐め始めた。お返しとばかりに、みかんはクールのお腹にチューをした。みかんとクールのラリーが続いていたのでおじいちゃんと店長は先に居間に入り、コーヒーを頂きながら世間話をした。たわいもない話をしていたが、話題が現在秋田県A市で起こっている問題になっていった。
もともと、A市は熊が現れる地域として認知されていたおり、出没時には地元猟友会の協力により駆除されていた。それが先日、猟友会メンバーが狩猟中の発砲が民家へものと告発され、結果地裁での判決が執行猶予付きの有罪とされた。これに県全体の猟友会が猛反発。今後、秋田県からの要請はすべて拒否する声明を出した。それ以降、A市では熊が駆除されない為、例年の3倍の出没が報告され、全国ニュースでも報道された。店長は、今回の出張が熊の調査だと説明した。(さすがにみかんがスナイパーなのは話さなかった。)
『みかん、せっかくじゃから裏山に散歩に行かんか。多分セカイもいると思うぞ。』
『行く行く!店長、実はもう一匹三毛猫のセカイって子もいるの。』
『正解?』 『セカイだよ。本名は世界の果てだけどね。』
ますます混乱しながら、店長はおじいちゃんとみかん、そしてクールと一緒に散歩に出かけた。家の外に出るとすぐにクールが倒木の上を凄まじいスピードで駆け上がり、こっちを見ながら『ニャー』と鳴いた。みかんは速いと言いながら追いかけた。
『おじいちゃん、クールちゃんはすごい俊敏ですね。何かネコちゃん本来の野生の本能が目覚めた感じですね。』
『そうなんじゃ、東京に居たときはネコは、家飼いしないといけないと教えられて、外でのリスクは理解してたんじゃが。。。何かこの子達が、伸び伸び暮らしていける環境がないかと考えて、こっちに引っ越したんじゃ。もちろん、ケガや病気のリスクはあるが、都市部比べれば交通事故や猫同士の喧嘩も可能性が断然低いからよかったよ。』と話していたら前方からみかんが叫んだ。
『イ、イ、イノシシよ!大きい!』
『みかん、慌てず背中みせちゃいかん、ゆっ、』
『無理ー!こわーーーい!』と叫びながらはおじいさんの言うことを無視して向かって来た。みかんとイノシシの距離が3m、2m、1mと縮まってきた。
店長が『あぶない!』と叫んだ瞬間、脇の草むらか小さい塊がイノシシの側頭部にぶつかっていった。イノシシは横転し、驚いたようにすぐに立ち上がった。その間、みかんはおじいさんと店長のところまでたどり着いた。
『あっ、あれセカイじゃない!』小さい塊は三毛猫のセカイだった。セカイはイノシシの真正面にたち、何かニャーニャーと文句をいっているようだった。すると遅れて白猫のクールもイノシシの向かって左横に立ち、同じくニャーニャーと文句をいっているようだった。
『あの、イノシシはこの辺に住んでてクールとセカイの友達じゃよ。みかんが背を向けた走ったから本能的に追いかけちゃったんじゃ。』
『ほんと?じゃあ大丈夫なのね。』
一方、店長は『そう、あれ、ネコ用あるよね。2つ。うん、そう、そう。ありがとう、じゃ後で』と誰かと電話をしていた。そしておもむろにおじいさんの前に立って、『急で申し訳ないのですが、クールちゃんとセカイちゃんを一日お借りできませんか?』と突然申し入れた。
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