第26話 黒き門番と、覚醒の兆し
黒曜石のような不気味な輝きを放つ、巨大な塔。その入り口を守るように立ちはだかる二体の異形の門番が、赤い複眼をギラつかせ、アタシたちにゆっくりと迫ってきた。歪んだ金属と、脈打つ生体組織が融合したような、悪夢から抜け出してきたかのような姿。周囲の空間は、塔から発せられる異様なエネルギーで満ちており、肌がピリピリと痛む。
「イヴ、準備はいいな! プロの連携、見せてやるぜ!」
アタシは二丁のオートマチックを構え、隣に立つイヴに声をかける。
「はい、レン! 全力でサポートします!」
イヴの声には、緊張と、そして不思議な決意のようなものがこもっていた。
キシャァァッ!
門番の一体が甲高い咆哮を上げ、その腕に備え付けられた鋭利なブレードを振りかざし、アタシたち目掛けて突進してきた! 速い!
「チッ!」
アタシは素早く横に飛び退き、同時に牽制の弾丸を数発叩き込む! しかし、硬質な外皮に弾かれ、火花が散るだけだ。
「レン、右の個体、3秒後にブレードによる薙ぎ払い攻撃! 左の個体は、エネルギーチャージを開始、高出力のエネルギー弾を発射する可能性があります!」
イヴが冷静に敵の動きを分析し、警告を発する。
アタシはイヴの情報を頼りに、門番たちの攻撃を紙一重でかわしていく。だが、相手は二体。おまけに、この歪んだ空間では、普段通りの動きが取りにくい。
「クソッ、こいつら、動きが読みにくい上に硬えぞ!」
焦りが募る。プロとして、弱音は吐きたくないが、これまでの敵とは明らかに格が違う。
門番の一体が、エネルギーチャージを完了させたのか、その胸部が不気味な光を放ち始めた。まずい、あれを食らったらひとたまりもない!
「イヴ、伏せろ!」
アタシはイヴを庇うように前に出ようとした。
その時だった。
「レン…! 危ない…!」
イヴが、アタシの前に飛び出すようにして叫んだ。そして、彼女の体が、ふわりと淡い青白い光に包まれたのだ!
ドォンッ!
門番から放たれた高エネルギー弾が、イヴの…いや、イヴの前に現れた、半透明の光の壁のようなものに激突し、激しいスパークを上げて霧散した!
「なっ…!? イヴ、今の…!」
アタシは驚愕に目を見開く。あれは、バリア? アニマ・マキナに、こんな機能があったのか?
イヴ自身も、自分の両手を見つめ、驚いているようだった。
「…これは……私の、力……? 分かりません…でも、レンを守らなければと…強く思ったら……」
塔から発せられる強烈なエネルギーと、フラッシュバックする記憶の断片が、イヴの中で何かを目覚めさせようとしているのかもしれない。苦しげに眉を寄せながらも、その瞳には強い意志の光が宿っていた。
「…よくやった、イヴ! さすがアタシの相棒だ!」
アタシはイヴの肩を叩き、再び銃を構える。イヴの未知の力が、アタシたちに反撃のチャンスを与えてくれたのだ!
「レン、あの門番の胸部中央、発光している部分! そこがおそらくエネルギーコアです! 装甲も他の部位より薄い可能性があります!」
イヴが、先ほどの戦闘データと自身の分析を組み合わせ、敵の弱点を瞬時に特定する。
「了解だ!」
アタシはイヴの言葉を信じ、全神経を集中させる。一体の門番が、再びブレードを振りかざして迫ってくる。アタシはその攻撃をギリギリでかわし、懐へと潜り込む! そして、至近距離から、イヴが示した胸部中央のコア目掛けて、二丁のオートマチックの弾丸を全弾叩き込んだ!
ギャギャギャギャギャッ!!!
甲高い断末魔のような叫びと共に、門番の胸部が激しくスパークし、内部から爆発するように光が溢れ出す! そして、その巨体は力なく崩れ落ち、動かなくなった。
「よし、一体!」
残るはもう一体! アタシたちは、息の合った連携で、残りの門番も追い詰めていく。イヴが敵の動きを予測し、アタシがその隙を突いて的確な攻撃を加える。時折、イヴの体から放たれる淡い光が、アタシたちを門番の攻撃から守ってくれた。
そして、ついに――
ズゥゥン……
最後の一体が、大きな金属音を立てて地面に倒れ伏した。赤い複眼の光が、ゆっくりと消えていく。
「……はぁ……はぁ……やった、な……イヴ……」
アタシは、その場にへたり込み、荒い息をついた。全身が鉛のように重い。イヴもまた、肩で息をしながら、アタシの隣にゆっくりと座り込んだ。彼女の体から発せられていた光は、もう消えている。
「…レンこそ……あなたの勇気と、的確な判断がなければ……私たちは……」
イヴも、息を切らしながら答えた。その声には、疲労と共に、確かな安堵の色が滲んでいた。
アタシたちは、互いのボロボロの姿を見合わせ、そして、どちらからともなく、ふっと笑みがこぼれた。過酷な戦いを共に乗り越えた、確かな絆が、そこにはあった。
目の前には、静かに佇む黒い塔の、巨大なゲート。アタシたちが二体の門番を倒したことで、まるでアタシたちを招き入れるかのように、その重々しい扉が、ゆっくりと、不気味な音を立てて開き始めたのだ。
ゴゴゴゴゴ……
扉の奥は、深い闇に包まれていて、何も見えない。ただ、ひんやりとした、そして何かを予感させるような、微かな風が吹き出してくる。
アタシとイヴは、顔を見合わせた。言葉はなかったが、互いの瞳には、同じ覚悟の色が浮かんでいた。
「……行くか」
「はい、レン」
アタシたちは、疲れた体に鞭打ち、ゆっくりと立ち上がった。そして、未知なる塔の内部へと続く、暗く深い入り口へと、最初の一歩を、共に踏み出した――。
薄暗い通路の奥からは、不気味なほどの静寂と、そして、アタシたちの運命を大きく変えるかもしれない、何か得体の知れないものの気配が、確かに感じられた。
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