第55話 故郷
「ここが、マスターの故郷ですか」
「そうだねー。まさか、帰ってくるとは思わなかったけど」
半ば家出するように出てきた街だからなぁ。多分、家はもう弟でも作って継いでるんだろうな。
「ハートの街、となると、マスター隠してることがありますよね?」
「……はは、やっぱり隠し通すことはできないかぁ」
僕の名前はルーク・ハートだ。あまり、自慢するようなことでもないのだけど、貴族であり、この街の領主の血を受け継いでいる。
王様に殺されることになったフィールに貴族だと言うのは避けたいのだけど、名乗ったのはかなり前だからなぁ。さすがに、ばれちゃうか。
「察してるとは思うけど、僕は領主の息子だよ」
「そうでしょうね。なぜ、黙っていたんですか?この街に来ると決める前なら貴族と名乗るのはやりずらいのは分かりますが……」
「えぇっと……」
いざ、聞かれるとなんだか気恥ずかしいな。とはいえ、ごまかすこともできないよなぁ。
「そんなことを思っていたんですか……」
説明すると、フィールは呆れたようにそんな言葉を吐いた。
「言っているように、私には勇者だという自覚みたいなものはないんですよ。なので、特に気にする必要はないですよ」
そうは言ってるけどね……。
やっぱり、気にしてしまうもので。
「マスターは実家に顔を出すんですか?」
「……顔を合わせづらいけど、帰ってきてるのに会わないのはね」
行方を探されていないあたり、そこまで気にされてはいないのだろうけど、ここに帰ってきているのを知られたら、なぜ顔を見せないって思われるだろうし。
「なるほど。私はどうしましょうか?」
「一緒に居ても問題ないと思うよ。対外的には息子としてはいないだろうし」
貴族として、息子が家出しましたとは言えないだろうから、貴族籍からは外されてるんじゃないかな?
「いえ、家族と会うのに私が居ていいのか、ということです」
「……ああ。居ても大丈夫だよ」
フィールも僕のことを気遣うようになったのかな。でもまあ、家族と言ってもそこまで仲が深いわけではないはず。だから、むしろフィールが居てくれたほうが、気まずくならないような気がする。
「では、先にそちらを済ませましょうか」
「先に、フィールの体を探さなくていいの?」
「大丈夫ですよ。死ぬわけでもないので」
死ぬことはないだろうけど……。気にならないものなのかなぁ。
「分かった。とりあえず、領主様に会えるか確認してみようか」
「最悪、忍び込んでしまえばいいですよ」
「それは、捕らえられたら、処刑だよ」
「私たちを捕らえられるような人はこの時代にはいませんよ」
まあ、確かにフィールの教えを受けた僕は世界の中でも有数の実力者になったと言えるだろう。フィールはさらに上のトップクラスの実力者だろう。勇者としての力があるなら、トップクラスというより、最も強いと言えるかもしれない。
「まあ、正面から入れなければそれでいいよ。訪れさえしておけばいいでしょ」
「そんなものなんですね」
一般的な家族はもっと仲がいいのかもしれないけど、僕の場合はそこまで家族仲がいいわけでもなかったしね。
そんな感じで雑談していると、領主館の前までやってきた。
「ルーク様ですか?」
僕の姿を見た門番はそんな声をかけてきた。
「かなり経ってるけど、分かるんだね」
何年か経って、姿はかなり変わってると思ったんだけど、分かるんだなぁ。
「と、そちらの少女は……」
「ああ、こっちはフィールって言って、僕のパーティーメンバーだよ」
「そうなんですね。ルーク様も強くなられたようで……。これは私でも勝てるか怪しいですよ。フィールさんに至っては、私では絶対に勝てないですね」
門番はそう言って苦笑する。
「僕も成長しているからね。と、領主様に会うことはできる?」
「そうですね。大丈夫だと思いますよ」
そう言って、彼は門を開ける。そんな簡単に通してしまっていいのかと思うが、まあ僕を覚えていて信頼してくれたことを喜ぶべきか。
「では、ついてきてください」
彼は、僕らを先導して館へ向かう。
「……想像していたよりいい雰囲気ですね」
フィールがそんなことをつぶやいていた。
確かに、使用人との仲はかなり良かったからな。貴族として生きるのが嫌だと思っていなければ、家出なんてしていなかっただろうな。
とはいえ、後悔しているわけじゃない。貴族より自己責任で生きていけるような冒険者のほうが僕にはあっている。それに、家出しなければフィールとは出会えていないわけだしね。
「では、こちらの部屋でお待ちください」
門番は、僕らは客室に案内して出ていった。おそらく、領主、父に連絡氏に向かったのだろう。
「流石に緊張するな……」
「久々に親に会うって緊張するんですか?」
「何話せばいいのか分からないしね」
いや、本当に何を話せばいいのか全く思い浮かばない。
「領主様の許可が取れましたのでご案内します」
しばらくして、先ほどの門番が戻ってきた。
「ありがとうございます」
そうして、僕は家族との再会を果たすのだった。
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