第54話 パーフェクト
〈sideシーザー〉
「な、なんなんだよ!」
俺はそいつに向かって叫ぶ。手にもっていた岩を放り投げ、相棒の大剣を手に取る。
「……危険を感知。防衛します」
「は?何言ってんだてめぇ」
俺が放り投げた岩には血がべっとりとこびりついており、明らかに致命傷を負わせることはできたはずだろう。
そして、瞬間俺の体に衝撃が加えられる。
「――がはっ!」
何が起こった?俺は、体を起こしそいつに視線を向ける。
先ほどまで俺がいたであろう場所にたたずむ奴。
つまり、俺が認識できないほどの速度で奴は動いて、俺を攻撃した。
「……とんだ、バケモンじゃねぇか」
格が違う。俺と奴の間にはそれだけの差があった。
あれか?死の危機に瀕して人間としてのリミッターが外れたとでもいうのか?
「てめえら!逃げるぞ!」
俺はそう叫んで、その部屋から逃げ出す。
「は?最後までやって殺しておかないと……」
「あんな状態の奴に勝てるっていうのかよ!それに、あの出血量じゃ、じきに死ぬ!」
マーガレットがふざけたことを抜かすので、俺は足を止めずにそう叫ぶ。
幸いにも、奴は逃げる俺たちを追う様子はない。ただただ、自己防衛本能で動いてるって感じだな。
デイビットは、何も言わずについてきている。
「……回復くらいはしといてあげよっか」
背後からそんな声が聞こえてきた気がしたが、今はそんな声に気を取られてるほど余裕はない。一切足を止めることなく、俺たちは走り続けて……。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
ダンジョンの外まで逃げ出すことに成功していた。
「あいつは何なのよ!」
「ああ、あんな化け物じみた力、今までも見せてなかっただろ」
「知らねぇよ!死にかけて、全力で抵抗してただけだろ!」
「死にかけただけで、あんな力出せるわけがないでしょ!」
「「……」」
その言葉に俺もデイビットも返すことができなかった。
それもそうだ。あいつの出した力は本当に異常としか言えなかった。
「まあ、もう過ぎたことだ。あの傷じゃ、あいつの回復魔法程度じゃ治せねぇよ」
「たしかに、私でも治せないくらいの傷だったわね」
現実逃避なのかもしれない。だが、あいつに恨まれていないとそう思いたかった。
『何を言っているのだ?』
俺が、あいつにビビる?ふざけるな!
そんな声が聞こえたと思った途端、俺の思考が切り替わる。
『そうであろう?あの過去の遺物に、この時代を生きる資格などない』
「ねえ?大丈夫?」
急に黙り込んだ俺を見てか、マーガレットがそんなことを口にする。
「ああ。問題ない」
俺は、あいつを消さないといけない。あれが生きているのは気に食わない。だからこそ、パーティーに入れ殺そうとしたわけだから。
おい、さっきから声をかけてくる奴よ。どうすれば奴を殺せる。
『お前は我だ。そんなことは知っているだろう』
なるほど。俺は思考を巡らせ、記憶を辿る。
そうかそうか。お前の力は、そういうことだったのか。
だったら、あの場所に向かうはずだ。幸いにも、俺にとってもその場所に行くことで、力を得られるというメリットもある。
あいつが、あの力を持っているという状況は面倒だが、対処法がないわけではない。
待ち構えるとしようか。
「さっさと行くぞ」
俺はそいつらを先導して、歩を進める。奴を消すために。
まずは、こいつらを思い出させることからだな。
俺はシーザー『王』なのだから。
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