第56話 父

「久しぶりだな、ルーク」




「お久しぶりです」




 父との会話はそんなやり取りから始まった。




「そして、そちらの……」




「?こっちはフィールと言って、僕の仲間です」




「お、おう。そうか」




 フィールに目を向けて少し詰まった父に、フィールのことを紹介する。




「……ずいぶんと、美人さんだな」




「ありがとうございます」




 確かに、フィールは美人か……。初めて見たときはその可愛さに驚いたな。




 あの時は、殺されかけた直後ということもあって、フィールが救世主、なんなら女神にでも見えたくらいだった。




「して、ルークはちゃんと生きていけているか?」




「大丈夫です。彼女のおかげで、ですけど」




 フィールと会う前、パーフェクトに所属していたころはその日を生きるので精いっぱいだったが、今はもう余裕のある暮らしができている。……まあ、すべてフィールが規格外の力を持っていたおかげなのだが。




「そうか。親として、感謝する」




 父はそう言ってフィールに目を向ける。




「この子とはどこで出会ったんだ?」




「情けないですが、冒険者としての仕事中に助けられて、そこから一緒に行動しています」




 さすがに、フィールとダンジョンで出会ったとは言えないからね。少しうそをついて説明した。




「ふむ。……ひかれあったということか」




「惹かれあったって……」




 本当にそうならば、とても嬉しいが、最近ようやくフィールが感情を得てきたような気がするというのに、すでに恋心を抱いているとは考えにくい、か。




 ほんとに、フィールは可愛いから、もし僕が付き合えるなら付き合いたいよ!




「なるほど。やはり、ルークは今のほうが幸せなのか」




 そんな僕の様子を見てか、父はそう言葉をこぼした。




「はい。貴族としてはあまりよくないのでしょうけど、僕にはこちらのほうが合っています」




「だろうな。……分かった」




 父はそう言葉を置いて、




「ルーク・ハートをハート家より勘当する!」




「まだ、僕の籍は残っていたんですか?」




「ああ。家出していたとしても息子は息子だ。親として戻ってこれる家を用意しておくものだろう?」




「……分かりました。ありがとうございます」




「……?勘当されたのだ。感謝するでない」




「それでもです。今までありがとうございます」




「……はは、分かった。ならば、家から出るがよい!……まあその少女となら家に入るくらい簡単だろうがな」




 なるほど。親子の縁は切るがたまには顔を見せろということか。




 確かに、フィールほどの規格外なら、貴族の家だろうが忍び込むことは容易だろうな。そんなことは想定されていないだろう。








 そうして、僕らは実家、いや今は領主館というべきか。から出て、ハートの街を歩いていた。




「いいんですか?」




「なにが?」




「貴族として生きるほうが楽ですよ?いくら私が強くても権力があるわけじゃありません」




「……ふふ」




 そんなことを言うフィールに思わず笑ってしまう。




「おかしなことを言いましたか?」




「いやいや、そんな風に思っていたんだなって」




「一般的には貴族であるほうが良いと思いますが……」




「まあ、そうなのかもしれないけどさ、僕はフィールと一緒に居ることのほうが好きだから」




「……告白ってやつですか?」




「えっ!いやいや、違う違う!フィールと一緒のほうが居心地がいいってだけだよ」




 確かに、今の言い回しは告白っぽいか……。




「そこまで焦らなくても……。冗談ですよ」




 フィールはそう言って、くすりと笑みを浮かべるのだった。








〈sideルーク父〉




「フィール、か……」




 恐らく、私の推測は当たっているだろう。名前といい、容姿といい、そっくりだ。実際に見たことがあるわけではないのだが……。




 ……まあ、性格は全く違うな。とはいえ、偶然というにはあまりにも奇跡が起こりすぎている。つまり、引かれ合ったということだろう。




「……私にも責任はあるのかもしれないが」




 私が、私情を優先してしまったから、このような事態になったのだろう。幸いにも、あの少女からは奪おうとしているような気配は感じなかった。




「……結局、あの子が幸せであればいいのだが」




 そうだ。私にはもう、親だと名乗るような資格はないのかもしれない。だが、少なくとも親としてあいつのことを愛していた。


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