第53話 伝説の終わり
そうして、災厄討伐を成し遂げた私は王都まで戻ってきていた。
「よくぞ、戻ってきた。勇者……いや、大罪人フィールよ」
そんな私を待ち受けていたのは、そんな王様の言葉だった。
そう言われたときに、理解した。
私を勇者であると周知しなかった理由。なるほど、勇者として利用した後に、処分する予定だったのか。最初にいた仲間たちは私の監視役といったところだろうか。……にしては貧弱すぎるけど。
「ふむ。勇者は災厄フィールと相打ちした。そうであったな?」
「はい。その通りです」
目の前で、そんなやり取りが繰り広げられる。
はぁ……。こいつらを殺してしまおうか?
そんなことを思ったが、私は勇者だ。今、この国はこの王の統治のもとで安定している。そんな中、私がこれを殺したら、国は不安に陥るだろう。
勇者という肩書も周知されていないのだから使えない。ただ、強いだけの少女に誰が付き従うのか。
ならばもう、殺されることを受け入れるしかない……か。
幸いにも、私に未練はない。むしろ、彼らに会えるだけで十分だろう。
それから、数日が経過した。
「なぜだ、なぜ死なん?」
勇者としての機能なのか私はまだ、死ねずにいた。心臓を貫かれようと、頭をつぶされようと、すぐに再生する。
……いや、私も知らなかったんだけど。さすがに、旅の中で死の経験っていうのはなかった。死んでから生き返っているのか、死なないのかよく分からないけどまあ、死ねてないってこと。
「では、封印してはどうでしょう」
側近がそんなことを口にした。
「封印、できるのか?」
「体をバラバラにすれば何とかなるでしょう」
すごい猟奇的な話してるなぁと思いながら私はその会話を聞いていた。まあ、確かに私の体をいくつかに分ければ、封印くらいならできるかもしれない。すべて再生して私が増殖するとはさすがに考えづらいし。
「分かった。では、すぐに用意せよ」
ふと思ったけど、いくら私が今まで抵抗しなかったからって、ここで話すことかねぇ?
そして、私は体をバラバラにされた。どうやら、私の体は痛みを感じないものになっていたらしく、全く痛みはなかった。
「それでは、封印を開始します」
そう魔術師らしき人が口にした瞬間、辺りに魔法陣が広がる。
うーん。割とお粗末だなぁ。ナナシならもっとうまくできそうではある。
ナナシならって考えちゃう辺り、やっぱりかなり記憶に残ってるのかなぁ。
蘇生できるならここから抜け出してするけど、まあ、私にはできないからなぁ。いくら私が規格外といえど限度がある。
面倒なだけだし、このまま封印を受けるのがいいかな。いくら下手な魔方陣と言っても、失敗するほど下手なわけではないし、私を封印することはできるだろうな。
そうして、私に向かって魔力が押し寄せる。
おー、封印ってこんな感じなのか。私という自我が希薄になっていく。魂ってものも存在するのかな?ぼんやりと、私の体を眺めるように思った。ふわふわと宙を舞うようにして……。
「封印は完了しました」
そうして、私という意識、心は眠ることになるのだった。
そして、私は目を覚ます。
〈sideフィール〉
「これが私の過去、ですか」
光の玉を取り込み、私はすべてを思い出した。
「思い出したの?」
思い出したかでいえば、思い出した。
「はい。思い出しました。ただ……」
これは私の記憶であり、私の記憶ではない。彼女は勇者のフィールであり、今の私はただのフィールだ。その二人が同一人物のようには私には思えなかった。
「私の記憶というより、誰かの記憶が流れ込んできたような感覚がします」
「なるほど。ってことはまだ、フィールがフィールに戻るには足りないってこと?」
私が私に戻る……。何かが足りてないのだろうか?
「もう一か所、すでに崩れてしまったダンジョンがあるから、そこにあるかもと思ったんだけど」
「……そう、ですね」
正直なところ、分からない。記憶の私に共感できていないのは、何かが私に足りていないからなのかどうか。マスターが私のことを思って言っていることは分かっている。
結局、私って誰なんだろう?
『……さあ?それは君が決めることだよ』
そんな声が聞こえたような気がした。
〈sideルーク〉
「それがフィールの過去だったのか……」
信じがたい話ではあるのだけど、今までの様子を見るにフィールが嘘をついているとは思えない。
僕は伝説の勇者様と旅をしていたわけだ。……そりゃまあ、フィールが規格外になるのも当然なのかもな。
ただ、話に聞いているフィールは今のフィールとは全く一致しない。記憶を失っているから当然なのかもしれないが、なんだか違和感がぬぐい切れない。
もしかすると、フィールのかけらを集めることで今のフィールとは別人と言ってもいいような存在になるのかもしれない。
……果たして、それはフィールにとって幸せと言えるのだろうか。
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