第52話 災厄
「うぅ……」
そうして私たちは、災厄と戦う目前というところまでやってきた。
「流石に、戦闘能力不足になってきましたね」
「完全に俺たちはお荷物ってやつか……」
「……まりょくー」
そして、私以外の面々は同様にダウンしている。
「流石にこれ以上がんばれーとは言えないね……」
孤立感というものだろうか。神様はなんでこんな力を私に与えたのやら。
「……うー。魔力が無限にあればー」
「いや、流石の私も無限の魔力は持ってないんだけど」
確かにナナシに無限の魔力なんてものがあれば、私に食らいつける。彼女にはそれだけの才能があった。とはいえ、神から与えられた才能に追いつけるほどでもなかった。現に彼女も今限界を迎えているといっても過言じゃない。
「……分かった。ここからは私一人で行くよ」
「……行く」
手に持った杖にもたれかかるようにして、私についていこうとする。
「もう、十分だよ」
私はそう言って、彼女から杖を取り上げる。
瞬間、彼女は地に倒れこむ。
「……返して、まだ、やれる」
それでもなお、地を這い私のもとに向かってくるナナシに私は言葉をかけようとして……。
「やめておけ、そんな状態でついていっても足手まといだ」
レイガスが彼女を止める。
「……ごめんね。こんな終わり方になって」
「いや、仕方ないさ。俺もこいつらも神から何かを与えられたわけじゃない」
それもそう、なのだろう。この旅は、ただの私のわがままだ。こんな終わり方をしてしまうのも当然なのだろう。
「物語のようにはうまくいかないもんだね」
過去の勇者もこんな孤独感を味わったのだろうか。仲間が悪かった、だなんて思わない。今まで旅をしてきた彼らをそんな風に思うこともできなかったし、そして、実力という面でも私に匹敵していた。もしかすると、歴代最強の勇者パーティーだったかもしれない。
「私は行くよ。ここまで来たんだ。あともうひと辛抱ってね!」
私は笑みを浮かべて彼らに告げる。強がりなのだろうけど、まあ、こう言うしかなかったのだろう。
そうして、私は彼らに背を向ける。ここから災厄まではあと数百メートルといったところだろうか。残すは最終決戦のみ。
「……待ってる」
そうか、まあ、また、平和になった世界でゆっくり過ごすのも悪くないかな。
……そう思った瞬間だった。閃光がほとばしった。
「っは!」
そして、目を開くと、そこには何もなかった。
唯一私を、私という規格外を除いて、辺りは消失していた。
「……そんなことって」
いったい何が起こったのだろうか。分からない。分からないけれど、今ここに、彼らがいないことは事実だ。
「……タイミングが最悪だよ」
割り切る。思考を切り替える。
「災厄を倒す。それ以外に道はない」
だから、私は歩を進める。
そして、そして、そして、たどり着いた。
「これが災厄ね……」
異形の化け物。キメラのようにつぎはぎされた体。
「柄じゃないけど、敵討ちと行きますか!」
そいつは、私の姿を認めるや否や、辺りにまた閃光が迸る。
「……さすがに直撃もらうとやばそうだね」
私はそう呟いて、その閃光を回避する。
そして、災厄との距離を詰める。
「……こりゃ、どこ切ったらいいのか分からないわ」
一閃、剣を入れてみたが、あまりにも相手が大きすぎる。つけた傷も、遠目では全く分からない。
「痛みとかも感じてなさそうだね……」
依然として、その巨体からは幾多もの閃光が迸っている。一切、驚いた様子などはなかった。つまり、あの程度の傷ではなんのダメージも与えられていないってことか。
「だったら、こういうのは?」
私は、魔力を集め、解き放つ。
「雷!」
それは、災厄に直撃し、辺りは光に包まれるが……。
「少し焦げたくらいかぁ……」
とはいえ、ダメージがゼロというわけでもないだろう。受けた瞬間、災厄は身を震わせ、体から生まれる閃光は増大する。
「……これはちょっと、避けるのきつくないかなぁ?」
隙間なく押し寄せる閃光に、障壁を作って防ごうと試みる。
「おまけに威力もあると……」
張った障壁は一瞬にして砕かれ、進むことをやめない。
「とはいえ、弱まっているね」
私はその閃光を剣で振り払い、再度、魔力をその手に集める。
「さて、どうしたものか……」
この魔力で再度雷を打ったところで、災厄の表面に少し焦げ目がつくくらいだろう。
なんだったら、先ほどの雷によるダメージはすでに回復していた。
「あんまり、精密操作は得意じゃないんだけど」
慣れないから、少し時間がかかる。戦闘中では致命的なほどの隙。だけど……
「君はそこまで周囲を認識しているわけじゃなさそうだからね」
魔力を剣にまとわせ、振り上げる。
瞬間、振り上げた剣先に形成される、魔力の剣。刃渡り数十メートルはあるだろう。
「なんて呼ぼうかな?大魔剣?」
即興で作ってみたものなので名前は特に決まっていない。まあ、名前なんてどうでもいいか……。
私はその剣を振り下ろし、災厄を一刀両断する。
「……さすがにこれで起きて来られると、面倒なんだけど」
切断された災厄は、少しの間動き続けていたが、その動きはだんだんと弱くなり、最後には動くことはなかった。
「……これで終わりか」
確かに強かった。今まで戦った魔物の中でもかなりの強さだろう。とはいえ、勇者としての力のほうが強かった。
「しくじったなぁ」
最初から、私一人で旅をしておけばよかったんだろうなぁ。
今更考えても仕方ないことではあるが、悔しいなぁ……。
私は災厄だったものを見ながら、そんなことを思うのだった。
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