第41話 才能がある

〈sideルーク〉




「ついたはついたわけだけどさ……」




「これはまた、明るい街ですね」




 ルーベ、フォーム、ルーカの街と比べて圧倒的な活気のある街だった。街のみんなが小躍りしながら行動しているようにすら見える。




『それはさすがに、錯覚でしょ……』




 そんな僕の言葉にフィーアから突っ込みが入る。レグルの街に向かう道中、何度も夢の世界とこちらの世界を行き来しているうちにこちらでもフィーアと会話することができるようになっていた。




『まあ、そうなんだけどね』




 フィーアとの会話は口を開かずともできるようで、心中で呟くだけでも会話は可能になったようだった。




「ただ正直、まともな街というだけな気がします。今までの街が暗すぎただけで」




「……そうかな?」




 今回の旅で回った三つの街以外の街については僕はほとんど知らないと言ってもいいくらいには知識が乏しい。なのでフィールの言うようにここが普通な街なのか、よくわからなかった。




『そうだねぇ。これは明るいというより発展した街って感じだね』




 そう言われて、よくよく周囲を観察すると確かに店舗の数や、明かりの数といったものは他の街よりも多く感じた。




『私の経験から推測するに、ダンジョンという資源を生かして街を発展させたといった感じかな?』




『フィーアのは経験からというより僕の知識からの推測だろうに』




 フィーアは僕の中に生まれた最強のイメージなのだから、僕の知っている以上の知識はないはずだ。




「とはいえ、発展しているのは事実っぽいですね」




 僕と同じように周囲を見渡したフィールがそう呟く。




「だね。ダンジョンをちゃんと利用したらこうなるのかな」




『ちょっと、それ私が今……』




「そうですね。ダンジョンから出てくるものの価値は今の世界だと高いようですから」




 フィーアのセリフを僕は聞き流しつつ、歩を進める。




「まあ、フィールからすればほとんどが無用の長物って感じだけどね」




「私にとっては不要なものですけど、価値としては私のいた時代でも十分ありますよ」




「?僕でもフィールから教わった魔法があればほとんど要らなくなるのに?」




 さすがに『転生の短剣』などを再現することはできないが、見た目よりも大きなものの入るかばん程度なら空間収納で十分だから不要になる。そんな感じで、僕の思いつく八割くらいはすでにフィールから教わった魔法で十分代用可能、というか上位互換になるのだが……。上位互換となる魔法のある時代でこんなものに価値があったとは到底思えない。




「……マスターは確かに知識面ではまだ私のいた時代の人には劣っていますけど、私の時代にないくらいには才能があるんですよ。あの時代の人々と比べると魔法の効果の大きさだけ見れば圧倒的にマスターに軍配が上がります」




『そうそう。自分に才能があるくらいはそろそろ認めたほうがいいよー』




 フィールとフィーア、両方からそんなことを言われ僕は何も言い返すことができなかった。やっぱり自己肯定感を高めるのは僕にはなかなか難しいらしい。どうしても、卑下的な思考になってしまう。それを見抜いてくるフィールもフィールなのだが……。こういう自分の悪い面を知られるというのはどうにももやっとしてしまう。かといって、すぐに治せるようなものでもないか……。




「少なくとも、有数の才は持ってますよ、マスターは」




「ありがと」




 ただ、自分をこういう風に肯定されるというのはむず痒いものがあるな。そのうち、フィールといるうちにどこかで僕は自分のことを肯定的に捉えることができるようになるのだろうか。




『まだ君はぴよぴよだからね』




『心は読まれないようにしてるんだけど』




 僕の心を読んだように言うフィーアに僕はそう突っ込みを入れる。フィーアとこちらでも会話できるようになる中、フィーアに僕の心を読まれないようにもなっていた。だから夢の中で多少フィーアに対して失礼なことを考えてもよくなった。……というか僕がぴよぴよってなんだ?




『ありがと、って言った後に黄昏た目で遠く、それも未来を見つめるような目をされたらいやでも予想はつくよ』




『黄昏た目と未来を見つめる目は全然別物だと思うんだけど』




 正反対のイメージの目である。




『どっちも遠くを見る目でしょ。それで同じ。そういうことで』




 相変わらず雑な少女である。




「そういえば、今日からもうダンジョンに行くんですか?」




「まあ、日は高いし今日、宿を見つけた後で行くかな」




「……宿をとる必要はないと思うんですが」




「……宿屋も取らずにダンジョンをめぐっている二人組ってだけでかなり目立つでしょ」




『とってつけたような理由を』




「そもそも二人でダンジョンに入ることが異常に分類されていると思いますが……」




 またしても、二人から僕は反論をもらってしまう。……いや、フィーアのほうは反論にはなっていないか。おい、僕のイメージの最強、そのオリジナルの最強に負けてるぞ!……いや、オリジナルのほうが強いって展開のほうがあるあるか。


 などと、僕らはどうでもいい抗争を繰り広げるのだった。


 ……ちなみに、宿は取らなくても大丈夫ということになった。

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