第23話
次の日の放課後、俺はさっそく疑念を確信に変えるためにシュナーべ先生の元を訪れた。
結局ダンジョンには潜れなかったしトンボ帰りすることになってしまった。
長期休みはまだまだ先だし週6ある学校に休日はエミエラと過ごすので空き時間は放課後のみと言っても過言では無い。
「シュナーべ先生、シュナーべ先生?」
「ひゃっ、はい!?」
「気持ちよさそうに寝てるところ申し訳ないです」
「うぅぅん!? 寝てないよ! 瞑想してただけだから!」
「無理がありますよ、シュナーべ先生」
驚き方と誤魔化し方が寝てるのがバレた学生の動きにそっくりで思わず笑ってしまいそうだ。
今日は終礼にも顔を出していなかったしかなりの時間寝ていたんだろう。
「あぅ、えっと、何か用事? それとも魔道具の勉強かな?」
「シュナーべ先生って妹が居ますよね?」
「っ!? ねぇ!! どこで聞いたの!! 教えなさい!!」
「ちょっ!」
あまりの剣幕にかなりビビってしまった。
普段のおっとりしたシュナーべ先生はどこへ行ったのか口調も雰囲気もガラリと変わり目付きがガチだ。
「ごめんなさい、でも、妹のことは数人しか知らないの小さい頃に離れ離れになってしまってから私は運良くこの学校に勤めることが出来て、ツテを使って調べて見たり一時期は冒険者になってあちこち歩いてみたりもしてたのに出会えなくって」
シュナーべ先生はまだ若そうなのにそんなに壮大な人生を送っていたとは……そういえばメルさんも凄い若作りな見た目だったしそういう家系なのだろうか?
「先生の本当の名前ってシュナベルですか?」
「っ!? 誰から聞いたの?」
グッと近寄って肩を完全に掴まれてしまった。
ズボラそうなのに何でこんなにいい匂いがするんだろうか。
それにこの人よく見ると結構あるのだ。
俺には
「恐らく妹さんですかね? メルと名乗ってましたよ」
「妹の名前で間違いない、お願い、何でもするから、妹に合わせて欲しい」
「1週間後に屋敷の近くでもう一度落ち合うのでその日に一緒に行きましょう」
「ほんと! ありがとう!」
ついに感情が吹っ切れたのか肩にあった手が背中に周りムギュっとした柔らかい感触が顔面にクリーンヒット。
突き放そうにもどこにそんな力を隠していたのかと思うほどに怪力でビクともしない。
俺にはエミエラが俺にはエミエラが俺にはエミエラが!
「し、死ぬ、離して、ください」
「あ、ごめんなさい、婚約者のいる男の子に……ほんとにゴメンなさい」
「いえ、こちらこそありがとうというかごめんなさいというか」
「もう、今回は私が悪いけどあんまりだとエミエラさんに密告するからね?」
「ごめんなさい……勘弁してください」
「貴族の男性って亭主関白でわがままなイメージがあるけどカイルくんは尻に敷かれている珍しいタイプよね」
そうなのか?俺が見た夫婦は全員奥さんの方が強かったんだけど...
まあ、貴族といえば偉そうなイメージがあるのは否めないし、学園にも貴族の息子というだけで威張り散らしている輩も見たことがある。
学園で先生をしているとそういう貴族と話す機会が多いのかもしれない。
異世界のモンペは権力を振りかざすぶんもっとめんどくさいんだろうな……
「じゃあ、今日はもう帰りますね」
「え、魔道具は?」
「今日はいったんパスでもいいですか?学園の図書館に行ってみようかと思ってて」
「あぁ、図書館か~、私も本を返さないと...」
「返してないんですか?」
「えぇっと、その」
「どの本ですか?」
シュナーベ先生はゆっくりと後ろの本の山を指さした。
嫌な予感がひしひしとするが念のため一応確認しよう。
「全部ですか?」
嫌な予感ほど当たるようでシュナーベ先生はこくりとうなずいた。
本はパッと見でも四十冊はある。
これを地道に図書室まで運んでいたらきりがない。
「何かいい運搬方法を思いつきますか?俺も手伝うので今日中に返し切りましょう」
「うーん、風魔法で一気に持ち上げる?」
「試してみますか」
本を五、六冊に分けてそのうちの一組をいい感じに風魔法で包んでみると思いのほか簡単に持ち上げることができた。
持てるギリギリまで冊数を増やして俺一人で二十八冊の本を持ち上げることに成功した。
「残りは任せてもいいですか?」
「うん、任せて」
そういうとシュナーベ先生は軽く残りの本を持ち上げて本棚にあった本までも軽々と運び始めた。
正直この人一人でよかったんじゃないかと思うがいい魔法の練習になるのでこのまま続けて図書室まで運ぶことにした。
「返却おねがいします」
「はーい...全部ですか?」
「はい、お願いします」
「わっかりました、もう一度借りていきますか?」
「あぁ、えっと、これとこれあとこれも、あぁ!これも必要で」
慌ててもう一度借りる本を選ぶシュナーベ先生の横で俺も本に目を通してみる。
どれもこれも論文のような見た目で知らない単語も多かったがその中で一つだけ『サルでもわかる魔道具作り』という本があった。
典型的な見てもらうための煽り文句のような一文だったが今の俺にはちょうど良さそうなので借りてみることにした。
「これ借りれますか?」
「あ、ごめんなさい、それは予約がはいってるので無理ですね」
「そうですか、じゃあ、自分も予約しておいていいですか?」
「はい、手続きしておきますね、一か月後には帰ってきてると思うので取りに来てください」
「ちょ、ちょっと待って!それを予約した子の名前はわかる?ぜひスカウトしたいの!」
「流石に個人情報ですし、私にどうにかする権限はないので」
「そ、そこをなんとか魔道具界の明るい未来のために......」
どうやらこれを借りたい人をスカウトして魔道具の沼に引きづりこみたいようだ。
まあ、新入生は俺だけのようだしもう少し人数がいてもいいんじゃないかと思うので何とか見つかるといいが難しそうだ。
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