第22話 放課後の過ごし方
「以上だ、何か聞きたいことや報告したいことはあるか?」
一日授業が終わり帰る前のホームルームの時間。
選択授業は2個まで選べるそうだがそれよりも気になるものがあるので今日はそっちに行ってみようと思う。
「カイル様、今日も私は選択授業の体験に行ってきますので!」
「あぁ、行ってらっしゃい」
「はい!」
エミエラはセシリアと一緒に今日も選択授業を受けに行くらしいのでここでお別れだ。
俺は急いで家に戻りセスに頼んで用意してもらっていたものを受け取る。
「ありがとうセス……頼んでたものとちょっと違う気が」
「派手で目立たない服装ですからせいぜい中流階級程度に見られるはずですよ」
「そうなの?」
「えぇ、外套はそこそこ使われていたものですし街に出ても浮かないはずですよ」
「そっか、じゃあ行ってくるね!」
異世界に転生したらまずする事の定番をまだ俺は済ませていない。
まあ、年齢的に出来なかっただけなのだがもう15歳なので可能なのだ。
冒険者登録!!
この定番イベントを消化する前に婚約者までできてしまうとは女難の相には驚かされる……。
しかし、なぜこの時期に冒険者になるのか?
そう疑問に思う人も居るかもしれない……
王都の近くにはヴィーナスダンジョンがある。
王国最大規模のダンジョンで未だに最深部が見えず冒険者がこれを目当てに王国に立ち寄るほどの夢が溢れた場所になっている。
ここで祝福集めとレベル上げに勤しもうというわけである。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが」
「登録ですね! 字は書けますか?」
「はい」
「では、こちらの書類を読んでサインをしてください、サインの名前で登録されますのでふざけたサインはお勧めしません」
「分かりました」
ふざけた名前って……過去にやらかした奴でも居るのだろうか?
俺は冒険者をしている間は貴族であることを隠すつもりなのでカイルとだけ書いて受付のお姉さんに書類を返す。
「カイルさんですね、冒険者についての説明は必要でしょうか?」
「大丈夫です」
「分かりました、あとはここに血を少し垂らして頂ければ登録完了です。問題行動などを起こすと冒険者資格の永久剥奪も有り得ますので注意してください」
「ありがとうございました」
よしよし、無事に登録できたしあとは馬車に乗ってダンジョンに行くだけだな。
明日から学校なのであまり時間をかけられないのが少し残念だがギリギリまでダンジョンに潜るつもりだ。
「……はぁ、定番をここまで再現する必要はないんだけどな」
俺がウキウキでダンジョンへと向かっている時、危機感知に反応があった。
微弱な反応でエミエラの
「あ、そうだ、お小遣いの確認をしなくちゃ!」
お小遣いの確認ってなんだよ……我ながら苦しい演技だが路地裏にスっと入り込んで影に隠れる。
「おい! あのガキどこに行ったんだ!」
「見失った? 徹底的に探せ! あんなカモなかなかお目にかかれないぞ!」
「しっかりしてくだせぇよ親分」
「うるせぇ!」
あいつらほんとに冒険者やれてるのか? 視野が狭すぎて隠れてる俺に気づけないなんてアホすぎるだろ。
3人組のバカが通り過ぎたのを見て路地から脱出。
馬車はギリギリ出発前だったようで何とか飛び乗ることが出来た。
馬車には恐らく女性である外套を目深にかぶった人が1人と向かいに明らかに冒険者らしい男女が2人居た。
流石に一日に不運は何度も不運は起こらないらしく何事もなく馬車はヴィーナスダンジョンのある場所に着いた。
王都から少し離れているのに冒険者のために宿泊施設や大きめの冒険者ギルドそして王都には劣るが立派な防壁が建てられているその姿はもう街と言っても差し支えないレベルだ。
「あ、すみません、金貨で払えたりって……」
「坊ちゃん、流石にお釣りが足りないぜ」
「そうですよね……」
ここで俺は痛恨の凡ミスを犯してしまう。
小遣いを普段使うことが無さすぎて持ってきた財布に金貨しか入っていないことを忘れていたのだ。
どうしよう、もうお釣りはいらない的なことを言ってダンジョンに行こうかな。
「ねぇ、私が立替てあげる、はい、これ」
「おう、姉ちゃん良い奴だな、坊ちゃんも感謝しとけよ?」
「えっと、はい、ありがとうございます」
「感謝しなくていい……少し着いてきて」
早くダンジョンに向かいたいのだが助けて貰ったので流石に着いていくしかないだろう。
大丈夫かな……いきなり怖いお兄さんが出てきてお金請求されたり?
異世界美人局なんて勘弁してくれよ?
「ガルさん、個室借りる」
連れてこられたのは知る人ぞ知る感が半端ないバーで中にはイケおじがバーテン姿でグラスを拭いていた。
「おいおい、メルがガキ連れて個室だぁ? 変なことすんじゃねぇぞ」
「しない、お願いがあるだけ」
「1番奥の部屋が空いてる、ガキも危なくなったら大声で呼ぶんだぞ」
「ガルさん、後で殺す」
「おいおい、それはないって! 謝るから謝るから〜メルーーー」
イケおじの陽気な悲鳴が扉の閉まる音とともに消える。
メルと呼ばれたお姉さん?少女は羽織っていた外套を脱いで席に座ると向かい側を指さして座れと合図してくる。
「失礼します」
「そんなに畏まらなくていい、それとも私が傅いた方がいい?」
もしかして貴族ってバレてるのか?
まだカマかけって可能性もあるしスルーして話を続けようか。
「やめてくださいよ」
「敬語はなし、私はあなたにお願いがあるから助けた別に感謝を求めるつもりは無い」
「どうして俺なんです?」
「あなた王立学園に入学してたり、してる知り合いは居ない?」
「王立学園の生徒ですけど」
「ほんと!?」
どうやら王立学園生に用があるらしい。
まあ、無理難題でなければ受けようとは思うけど学生にお願いってなんだろうか?
「姉を探してるの、今まで色んな国を回ってきて王国に辿り着いたけど王立学園の中を調べるコネを持ってない」
「お姉さんですか、でもなんで学園にいると思うんですか?」
「昔、村が焼かれた時に私を庇って逃がしてくれた、姉さんは魔法が凄く得意だったしあんな奴らに負けるとは思えないきっとどこかで冒険者か教職、王宮仕えになってると思う」
村が焼かれて妹を庇いながら生き残って逃げ延びるってどんな超人なんだ?
流石に生きてないんじゃないかとは思ってしまうけど可能性があるなら協力はしてあげたいな。
こんな可愛……こんな健気な少女の頼みを誰が断れるというんだ!
「特徴とか名前を教えてくれないか?」
「名前はシュナベル、得意魔法は水、火、風、土の4属性でかっこよくて強い、あと魔道具をこよなく愛してる……見た目はちょっと猫背気味? あとは茶髪で髪は昔から伸ばしてた」
シュナベル……魔法が得意……魔道具を愛してる
きっと気のせいだよな? 昨日の今日だぞ? そんなミラクル起きるわけない。
「分かった、見つけたら教えると言いたいところだけどどうやって連絡するんだ?」
「あっ」
ノープランらしい。
この世界では便利な魔法が少ないらしく遠距離でパパっと会話出来るような魔法がないそうだ。
転移魔法もエルフや精霊のような特殊な存在でないと使えないらしく一時期帝国がエルフに莫大な懸賞金をかけたりとそれはもう貴重な存在らしい。
「んー……あなたの家集合は?」
「あ〜、いいけど色々身元チェックされると思うよ?」
「あなたやっぱり貴族?」
「やっぱりバレる?」
「服装だとそんなにだけど剣が業物だって見抜けたから」
「普通の人にバレないなら別に問題は無さそうだな……流石セス」
「身元チェック……面倒、何とかならない?」
「あ〜、よし、1週間後に王都の端にある屋敷の近くで待っててくれ俺の方から会いに行くよ」
「分かった、じゃ、1週間後」
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