シルエット・リグレットⅡ

 進路希望調査票を持って、職員室で男性の担任の先生におずおずと渡すと、受け取った先生は気まずく笑った。

「まだ、決まらないのか」

「はい。すみません、せっかく期間伸ばしていただいたのに」

「理系で大学は考えているんだろう?」

「……一応」

 先生につられて、自分もぎこちなく笑った。

 その紙の記入欄のほとんどは空白のままで、何を書けばいいかすら分からず、結局そのまま出してしまったのだ。

 困ったような顔で進路調査票を見た先生は、小さくうなった。

「二年生から特進クラスがあるだろう。石塚をそこに入れるかどうか、希望している大学で決めようと思ってさ。推薦することは出来るんだが、石塚が望んでいなのに入れるのも……なぁ」

「はぁ」

 正直、特進クラスでも普通クラスでもどちらでも良かった。

 結局、学習の進度で言えば、塾の方が圧倒的に速い。

 特進クラスでは授業時間の拘束時間が長いとも聞く。

 単純に今後学ぶことに対しては今の内に知っておいた方がいいだろうから塾に通っているだけで、明確に難関大学を目指しているわけではない。

 そういうわけで、僕の答えも決まっていた。

「来年も、普通クラスが良いです。普通でも、推薦ってとれますよね」

「ああ。石塚なら大丈夫だろう」

 先生は、やっと悩んでいた仕事がひとつ無くなったことにとりあえず安堵するような表情を見せた。

「無理しない程度にな」

「はい」

 先生に一礼してから職員室を出ようとしたとき、ふと、職員室の壁に掛けてある部活専用の鍵が目の端に映った。

「あれ」

 天文部のスペースにあるはずの屋上の鍵が無くなっている。

「先生、誰かこの鍵持って行きましたか?」

「さぁ、すまん。俺見てなくて」

「……誰か、来たのかな」

 天文部は屋上での天体観測をするという名目で、屋上の鍵をひとつ所持している。

 幽霊部員の二人が突然来たのだろうか。

 屋上に望遠鏡の保管場所があるので、点検日だったのかもしれない。

 最近の多忙さにかまけて、忘れていたとしたら申し訳ないことをした。

 気になって、屋上へ向かうことにした。

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