第18話
授業後。家に帰り、聡と通話でレクチャーを受けながらパソコンに液タブを接続。ソフトもインストールして、試しに少し描いてみる。
「……簡単なような、難しいような」
比較的アナログと近い感覚で描けるが、線の細さはイメージ通りに行かない。その辺はツールを変更したり修正出来るらしいけれど、今は到底そこまでに至らない。
「まあ、こんな物か」
ペンを置き、パソコンと液タブの電源を落とす。飽きたのでは無く、予習と復習。宿題をやるため。「いいね」や絵を描くのもも良いが、さすがに学生としての本分を忘れる訳にはいかない。
「……っと」
ページをめくろうとした拍子に肘が当たり、消しゴムが床へ落ちそうになった。それを足で蹴り上げて宙に舞わせ、すくい上げるように掴む。動画サイトでありそうなシーンだが、自分が写るのは避けたいので投稿は不可能だ。
「受験シーズンには御法度か」
マンガやドラマでは多用されるネタ。ただ落ちる落ちないは自分の努力次第だから、何が落ちようと関係ない気もする。
「あれも駄目、これも駄目。制約が多いな、案外」
日本史の復習をしつつ、1人呟く。ただ法度とは、昔の法律のような物。制約があるからこそ、規律が生まれ秩序が保たれる。
その当時とネットの状況が同一とは言わないが、何の制約も無ければひたすらに混乱するのみ。また制約があるからこそ、その枠内での過ごし方を見つけようと努力する。
私も高校生という制約に窮屈さを覚える事はあるが、だからこその面白さも同時に感じている。また度が過ぎれば処罰を受けるのは、学校生活もネットも同様だ。
「あ」
スマホが不意に音を立て、画面を見ると「いいね」が送られていた。今日は多いなと思いつつ勉強に戻ろうとした途端、再び音がした。今度も「いいね」で、間を置かずにすぐ「いいね」が送られてくる。
気付くと一気に20くらい増えていて、少々うるさく感じるため設定で音を消す。その間にも「いいね」が次々送られてきて、次は「いいね」の通知自体をオフにする。
「何事なの、一体」
喜びよりも疑問が先に立ち、自分の投稿を確かめる。勿論それ自体は何も変わっておらず、ただイルカとブタバナガメの投稿に「いいね」が次から次へと送られてくる。
「……はい。……そう、すごい数」
連絡してきたのはさっきまで話していた聡で、彼も異変に気付いた様子。ただその理由も分かっているようで、特に問題はないらしい。
「……いや、驚くだけで全然意味が分からない。……今日は投稿禁止?……まあ、それはいいけど」
私はまだ勉強があるし、この件に関して彼はプロ。その指示に敢えて逆らう理由もない。
「……分かった、また明日」
通話を終え、ただSNSはそれ以上確認せずに勉強へ戻る。驚きと同時に、不安や気味の悪さも感じたためだ。都市伝説ではないけれど、ここから何かが起きるのではというくだらない想像をしてしまう。
翌朝。教室でよっちゃんに想像の一端を話したところで、口を押さえられた。
「止め」
大した話をしたつもりは無かったのだが、相変わらず彼女には不評。ただ前の席の子もすごい顔でこちらを振り返ったので、これ以上語らない方が良さそうだ。
「その失禁確実な怖い話はともかくとして。突然自分の投稿が注目された時に、よくある話なんだが」
聡が例のようにペンを回しながら、淡々と語り出す。私も姿勢を正し、彼の話に耳を傾ける。
「人気が無い時は「誰も見ていない」と思うから、結構自由な内容を投稿する。それだけなら良いんだが、場合によっては世間的に問題になりそうな投稿をしている場合もある」
「あるかもね」
「でもって人気が出ると過去の投稿を探られるから、その手の問題な投稿が見つけられる。結果ネット上で袋叩きに遭って、目も当てられない事になる」
今の忠告は私も聞いた事がある内容で、思わず自分の投稿を振り返る。
ドングリ、松ぼっくり、五目並べ、床、サッカーボール。果たしてこの中に、問題となるような投稿はあるだろうか。
「大丈夫だと思う?」
「問題は無い。ドングリの意味を読み解こうとする奴は出てくるかも知れないが」
「何それ」
「本人の意図を越えて解釈する厄介な連中が、ネットには溢れてるんだよ。こっちが「ドングリ」って言ってるだけなのに、「シイの実と言わずドングリと表現しているのは、人の持つ仮面性を……」って語り出す奴が必ずいるんだ。本当ネットは、政府が禁止してくれないかな」
相変わらず極端に走るな、この人も。言いたい事は分からなくも無いけど。
「で、このイラストが急に注目されたのはどういう訳よ」
よっちゃんの質問は私も昨日から思っていた事で、ただ予鈴と共に担任が入ってきたところで聡はスマホをリュックに放り込んだ。
「有名人に引用されたんだろ。よくある事だ」
「誰に」
「言っても分からんよ。ゲームプレイヤーだから」
どうやら彼が過去プレイしてたゲームの有名人という訳か。プレイ中の画像を投稿してあったのが、功を奏したようだ。
「そんな事より、学生は勉強だ」
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