第13話
その後はよっちゃんの家で勉強兼イラストで盛り上がり、気付けば翌朝になっていた。今日が土曜だからって、はしゃぎすぎたな。
「……怖っ」
ベッドから這い出てきたよっちゃんが、テーブルの上に散乱している自分のイラストにどん引きしている。その下に一応名称が記入してあるのだが、それにしても謎生物や謎物体が多すぎる。
「これってこのままにしておいたら、具現化して……」
「止め」
軽く頭をはたかれた。私もこれが具現化したのは、さすがに見たくはない。
「……外、外行こう。これは見たくない」
「朝ご飯?」
「相談込みで、魔狼におごってもらおう。後はこれの、供養方法」
それは私も、是非教えて欲しい。
という訳で、朝からやっている例のファミレスに集合する。聡は先に到着していて、あくび混じりにメニューへ目を通している。
「瑞樹は」
「あの子は人気者だから、あちこち飛び回ってるの。それより、これの供養方法」
彼氏よりも、謎生物の供養か。私も何より、こちらを優先したいが。
「捨てて終わりだろ。済みません、これ捨ててもらえますか」
ウェイトレスさんは聡を大きく避けて、私達の元へオーダーを取りに来た。だけどよっちゃんが作者と分かった途端、半歩退いた。
「この辺に、神社ってありました? それかお寺」
「すぐ裏手にあったかと」
「良かった。安心したら、お腹空いたな。モーニングセット3つ。私はデザートにアイスをお願いします」
よっちゃんはリラックスした態度で注文すると、ソファーに崩れた。まさかと思うけどこうして私達が油断してる隙に、具現化しないだろうな。
「怜の絵、見た事ある?」
「昔。上手いとは思った」
「それをアップロードするのってどうよ」
「悪くは無いかもな。ただ道具がいるだろ。液タブとか、イラスト用のソフトとか」
なにやら呪文を唱えられ、小首を傾げる。私はルーズリーフやノートに描けば済むと思っていたのだが、そう簡単な物でも無いようだ。
「ノートは駄目なの?」
「駄目では無いが、せっかくネットに上げるんだ。アナログよりもデジタルの方が色々便利だろ。……瑞樹か。……いや、ちょっと買い物を頼む。イラスト用の液タブと、イラスト用のソフト。ああ、その辺は任せる」
久しぶりに聡が、スマホをスマホらしく使う場面を見た気がする。というか、結構簡単に頼んだな。
「私、お金無いよ」
「それは俺が持つ。吉田さんもいる?」
「私は描かない」
「こういうのも案外受けると思うけどな。コアなファンが付く気がする」
ファンは付くかも知れないが、違う何かが憑くような気もするけどね。というかこういうのは、デジタルになっても力を発揮するのかな。
「絵を描くのは良いとしても、何を描いたらいいの?」
「ネットでは良くある話なんだが」
また語り出す聡。私も姿勢を正し、その話に耳を傾ける。
「二次創作。つまりパロディは描きやすいし、ファンも付きやすい。元ネタもデザインも初めから揃ってるからな。ただ同時に、叩く輩も多い。このキャラはこんな事を言わない。これを描け、あれは描くな。もっとエロいのを、なんて感じに」
「なんとなく、分からなくも無い」
「好きなマンガやアニメがあるならそれを元にしても良いが、ろくな事にはならん。思わずFが付く言葉を言いたくなるからな」
そこまで言われて二次創作を描く勇気は無い。だったら、何を描くのかという話だ。
「難しいな。落とし物もそんな簡単に見つからないし、描く物も分からないし」
「ま、せいぜい頑張りなよ」
急に投げやりになるよっちゃん。何かと思ったら目を閉じて眠りだした。私もあまり寝ていないので、その気持ちは分からなくも無い。
「よっちゃん、お店で寝るのは良くないよ」
「……すごい眠いんだって。これ食べたら、帰って寝る。せっかくの休みなのに、つくづく馬鹿な事をした」
「まだ、何もしてないじゃない」
「今日は夕方まで寝るのは決定だから、予告してるの」
よっちゃんはそう言うと、目を閉じたまま運ばれてきたモーニングセットを食べ始めた。ただそういう自堕落な過ごし方が出来るのも、休日の醍醐味と言える。
「聡は何か予定ある?」
「特にない。帰るなら送るぞ」
「いや。何かネタが無いか考えてみる」
ネタといえば、鉄火巻き。トロを食べ慣れてないのもあるが、赤身の方があっさりして食べやすい。後は白身の魚かな。
「魚って、いつ寝るんだろう。ずっと目、開いてるよね」
「寝ると死ぬんじゃないのか」
「止まると死ぬのはマグロでしょ。マグロって私、赤身が好きなんだよね」
「やっぱり、帰って寝た方がいいぞ」
どうやら私が正気を失っていると思っている様子。それはあながち間違いでも無いが。
「……お寿司屋さん。じゃなくて、水族館って近くにあったよね」
「見に行くのか。吉田さんは」
よっちゃんはもはや返事すらせず、黙々とスプーンを動かすだけ。まさかと思うけど、謎生物に取り憑かれてないだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます