第6話
放課後。例のファミレスで、聡と向かい合う。ちなみによっちゃんは、熱田君とデートらしい。
「そもそも、今までの投稿の狙いが分からん」
対して私は、駄目出しされている所。格差社会って、こういう事を言うのかな。
「初めがドングリで、次が松ぼっくり。もしこれを見ている人がいたら、多分こう思う。「ああ、この人は木の実が好きなのかな。それとも、エコな人なのかな」なんて感じに」
「なるほどね」
「そこにさっきの投稿だ。ドングリ、松ぼっくり、五目並べの棋譜。これらに共通する点を述べよ」
「現国の記述問題じゃないんだから」
そう答えたが、共通点は答えようが無い。というかこれに共通点があったら、逆にすごいと思う。
「筆者でも分からない気持ちを、読み手が理解出来るはずもないって事?」
「その通り。大抵は何らかの傾向があるんだよ。マンガならマンガ。食べ物なら食べ物。時々脱線はするにしても、それはある程度方向性が決まった後だ」
「私の傾向ってなんだろうな」
今までのは自分の興味が向いた事であり、聡の言う共通点や方向性は特にない。そもそもこれは好きだと言えるような事柄が、自分の中に強く存在していない。
「難しいね。というか、定期的に投稿している人を尊敬したくなってきた」
「身内向けならそれでもいいんだよ。大半の人は、身内にしか見られてないと思ってるからな。実際は全世界に公表してるから、時には大炎上するんだが」
「私の興味がある事。好きな事か……」
「それは明日までの宿題。それと俺。というか瑞樹から、1つプレゼントがある」
何がと尋ねるより早く、スマホが着信を告げる。画面を見てみると、聡から画像が1枚送られてきた。
「……これ、ゲームの画像?」
「瑞樹がプレイ中の画像だ。投稿用で、自動的に個人情報は隠れるようになってる」
「何か意味あるの、これ」
ドングリ、松ぼっくり、五目並べ。そしてゲームのプレイ画面。共通項を見つけるのは、ますます難解になった。
「意味は無いが、客寄せにはなる。このゲームのプレイ人口は、国内でも相当数いるからな」
「ただのプレイ画面でしょ」
「見る奴が見れば、これのレア度が分かるんだよ。知り合いの知り合いの知り合いからもらったて事にして、取りあえずの客寄せにする」
本当かなと思いつつ、画像に載っているタイトルである「Golden deer」を検索。すると、おびただしい件数がヒットした。
「直訳すると金色の鹿だよね。どういう意味?」
「この手のゲームにしては珍しい国産ゲームで、正確に言うと金鹿。別な書き方をすると鏖。皆殺しって意味なんだよ」
「よろしくを漢字で書くと夜露死苦っ、みたいな事?」
「あながち、間違いでも無い」
それこそ全然理解出来ないし、何がレアなのかも不明。それでも彼の言うままタグをつけ、投稿をする。
「何万人に見られる訳では無いが、とっかかりの1つにはなる。後は方向性だ」
改めて言われて考えてみるが、やはりこれといっては思いつかない。実家が古武道をやっているためそっち方面の知識はあるが語れる程ではないし、写真を撮るのは身バレのリスクが高まる。
「思いつかないなら、止めるのも1つの手だな」
「すぐそういう事を言う」
「無から有は作り出せないって言っただろ。その結果が、過激に走って大炎上だ」
聡はテーブルにあったスティックシュガーを手に取り、それを自分のグラスへ注ぐ振りをした。1つ2つなら当たり前だが、SNSだと彼の言うように過剰な方向へ走りがち。グラスの底に砂糖がたまるほど使ってしまえば、火の手の1つや2つは上がるだろう。
「オリジナリティがあって、定期的に投稿出来て、炎上しない内容でしょ」
「そんな都合の良いネタがあれば、誰かやってるけどな」
ペン回しのようにスティックシュガーを彼が回したところで、それが手の中から落ちそうになる。しかし彼はそれを宙でつかみ取り、テーブルへと戻した。
この前シャープを落としたのはわざとで、実際はこのくらいの反射神経と動体視力は備わっているのだと改めて分かる。
「今みたいなのを投稿するは?」
「これ以外に何が出来ると思う?」
「……難しいね」
「大抵の事は誰かがやってるし、奇をてらっても面白くない。苦労ばかりで報われないんだ、ネットというものは」
否定的な意見を今は聞き流し、もう少し考えてみよう。
私が今まで投稿したのはドングリと松ぼっくり。今見たのは、落ちそうになったスティックシュガー。これらに共通する事は何か。
「……ちょっと待って」
「またケーキを食べるのか。いい加減、太るぞ」
「そうじゃない。いや、ケーキは食べるけどそういう事じゃない」
「今度こそパンケーキか。これ、ホットケーキと何が違うんだよ」
それは私も知らないが、今はその事を考えている場合では無い。パンのケーキなのか、ケーキのパンなのかは少々知りたいが。
「落ちているのを撮影する。これ、どう?」
「……色々ギリギリだが、ありと言えばありか」
「勿論貴重品だったら警察に届けるし、汚い物は撮影しない。あくまでも、鑑賞に堪えうる物だよ」
「もう1つルールを作ろう」
聡はそう言って、リュックから空のお弁当箱を取り出した。そして、それを写すように指を差す。
「これが落ちてましたって投稿されたら、どう思う?」
「あり得ない。というか、やらせって思う」
「世の中、とにかく何であろうと文句をつける奴がいる。だからそういう奴は即ブロック、違法性があれば即通報。それと同時に、やらせの場合はやらせだと分かりやすくする」
彼はルーズリーフを取り出し、それにシャープペンを走らせた。そして文字の書いてある部分を手で切り取り、お弁当箱の上に載せた。
「お母さん、いつもありがとう?」
「これなら誰にも、やらせ。言い換えれば、「演出」だと分かる。こういうフェイクも入れて、少しずつ盛り上げていく」
さすが、親孝行の魔狼は色々考えてるな。
ではと思って床に視線を向けるが、綺麗に磨かれた床があるだけ。当然だが。何も落ちてはいない。
「よし、これはこれでよし」
床の写真を撮り、通りかかったウェイトレスさんにネットへアップロードして良いか確認を取る。人を写さなければ大丈夫との回答を得て、もう1度画像をチェック。何も映り込んでいないのを確認する。
「えーと、ちり一つ落ちていない綺麗な床。と」
「この店とのタイアップでも狙ってるのか」
「変な事言わないでよ。……よしと」
これは我ながら良い写真というか、良いアイディアだと思う。ちなみに住所も店名も入れていないので、タイアップの意味は無い。
「パティシエからのサービスです」
「これ、私に?」
ウェイトレスさんが運んできたのは私が良く頼むチーズケーキで、まさかパティシエがいるようなお店とは知らなかった。
「俺には何か無いのかな」
「ごゆっくりどうぞ」
ウェイトレスさんは聡の台詞を無視して、厨房へ戻っていった。前々から思ってたけど、聞いてないようで聞いてるような。
「ケーキもらっちゃった」
「これだから俺は、インターネットという物を信用しないんだ」
「魔狼時代に、何があったの」
「人生の全てがあそこにはあった。俺はもう、後は朽ち果てて消え去るのみだ」
1から100まで意味不明だな。
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