3. 夏幽霊 下

一月のまだ寒い季節この頃僕はこの場所で死んだ。創作者としての尊厳を失ったからである。僕は幽霊になって今でもここを彷徨っている。君の事が少し気掛かりではあるが、当時の僕としてはそんな事など気に出来る程の余裕などなく、ただ赤信号になるのを待っていただけだった。明日の向こう側へと飛び出して全てを忘れたかった。しかし待っていたのは地獄でも天国でもなくただひたすら一年に一度冬に繰り返し車に飛び込む感覚だけ。夏になれば体が自由を許し貴方の元へと帰れるのだが、それを君は認識する事はない。僕に気がついたと振り返った事もあったが、それは鮮血の様な夕日を見ている他なかった。いつまでも孤独だった。


夏になる頃、僕は足を伸ばして君に会いに行った。まさに灯籠流しの季節である。様々な願いを見ているとふと視線を奪うものがあった。「さよならサマーゴースト」これはなんだろう。宛名をみると僕への手紙だった。差出人は君で、僕の事を書いた手紙だった。そこには幽霊になって僕が会いに来るという創作物で、希望ににも似たそれらの文章に胸が痛くなった。僕は君の顔を見ることは出来るけど、君にはそうは見えてないのだから。取り残された君のことを書こうと思った。しかしペンを握ることが出来ずに断念した。「死ななければ良かった。」そう呟いた。歩いている。君の隣を。君は俯いていた。雨が降ってきたのかと思った。アスファルトに雫が落ちていたからだ。そんな君を抱きしめたいと思った。涙を拭いたいと思った。結局は逃げた先に楽園はなく、そこにあるのは別の地獄だけ。僕が弱かったんだ。きっと。君はそれでも生きていくのだから強いと思う。僕も君に手紙をしたためたいが出来ないので君を見つめていた。


僕は一生ここからは離れられないのか。一生よりも長い時間をここで過ごし赦される事はなく、ただ変な話だが、生き地獄である。どうしたものか。目が覚めたら朝になり、少しばかりの朝食を食べる。そんな生活に今更になって戻りたいと思った。君を見ているとそう思う。ただ風に吹かれながら。

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